piece.28-8
シロさん探しを諦めて、僕がディマーズに戻ったのは日が暮れ始めた頃だった。
宿舎に入ってすぐの場所にある談話室から、セリちゃんが僕を見つけて声をかけにきてくれた。
「カイン、おかえり。ゼルヤにおつかい頼まれたんだって?」
宿舎一階の談話室は男女共用だ。
就寝時間まで、自由に使っていいことになっている。
セリちゃんはそこで鎖を磨きながら、僕のことを待っててくれたらしい。
「うん、なんだかすごく難しい本だったよ。ちょっと中を読んでみたけど、読んでもちんぷんかんぷん。
あ、そうだ。リリーパスにステラたちが来てたよ。広場で星読やってて、相変わらず人がいっぱい並んでたよ」
「へえ! ホント? そっかあ、私も会いに行きたいんだけど、まだ内勤ローテしか解禁されてないからなあ。外の巡回行けるのはまだまだ先かなあ」
少しだけさみしそうな顔をするセリちゃん。
自分の身体を傷つけない毒消しの技が使えるようになっても、セリちゃんにはまだディマーズの敷地からの外出制限があった。解除されたのは部屋での軟禁だけ。
「あ、なんかね、ステラが言ってたよ。セリちゃんは今は外に出ると運気が最悪なんだって。建物の中で部屋の掃除をしてるといいって言ってたよ」
シロさんの話は、どうしてもできなかった。
敷地から出ることができないセリちゃんを不安にさせてしまうような気がして。
「おっと〜、ステラの言うことって本当に当たるんだよなあ。前にね、ステラの忠告無視してひっどいめに遭ったことがあるの。
あーあ、しょうがない、レミケイドのOKが出るまではずーっと内勤で我慢するよ。
あ、ねえねえ、そのゼルヤの本、気になる。ちょっと見せてよ」
僕が本を手渡すと、セリちゃんは真剣な表情でページをめくり始めた。
その姿を見てると、やっぱりセリちゃんって大人の女の人なんだなって再認識する。
難しい本に黙々と目を通しているセリちゃんが、なんだか別人のように見える。
普段はかわいいけれど、黙って真剣な表情をしてるところを改めてよく見ると、セリちゃんって、すごくきれいな大人の女の人だなって思った。
それに比べて自分は、やっぱり子供なんだって思い知らされる。
こんな子供っぽい自分が、無性に嫌になる。
僕だって、もっと難しい本が読めたり、落ち着いた大人の男の人になりたいのに――。




