piece.28-6
「え? いきなり何の話?
僕が気に入ってる人が……? 嫌なことをされたら嬉しい……? え? 意味わかんない。どういう意味?」
説明の代わりにデコピンが来た。
「ボクじゃなくてオレだろ、オ! レ!
何回罰ゲームためる気だお前は」
「んもー! オレね! オレ! はいはいオレはオレですよー!
えーと……んもー、シロさんのデコピンのせいで考えてたことが飛んでっちゃったじゃないかー」
不機嫌な顔のシロさんが、デコピンの構えで僕のおでこを狙っている。
僕はデコガードの姿勢のまま、もう一度シロさんに言われたことを考える。
僕が前に人からされて嫌だったことを、他の人がされていたら嬉しいかって質問だったよね……? 合ってるよね?
「そりゃ……嬉しくなんかないよね」
「ふーん、そういうもんか?」
「そりゃあそうだよ。しかも自分の好きな人がなんでしょ? オレ……セリちゃんにもシロさんにも、僕が昔されてたような嫌な目になんか遭って欲しくないよ。もし……そんなの絶対嫌だし……許せな……」
シロさんが変な顔をしてたから、途中でしゃべるのを止めてしまった。
「シロさん? なにその顔? なに驚いてんの? あ、もしかして質問の意味が違った?」
珍しく目をまんまるに開いた間抜けな顔のシロさん。
「いや、普通に俺がそん中に入ってんのな」
「え? 入るよそりゃ。オレ、シロさんのことだってセリちゃんと同じくらい好……あ! もも、もちろんシロさんは強いからオレみたいな目に遭うようなことないんだろうけどさ。でも、やっぱりやだよ……もしそんなことになったら、オレ……助けに行くし……」
危うくシロさんのことが好きだと言いかけて、あわててごまかした。
シロさんのことは、好きか嫌いかで言ったら嫌いじゃない。嫌いじゃないっていうか……やっぱり好きだと思う。
でも好きは好きでも、セリちゃんへの好きとシロさんへの好きは全然まったく似て非なるものだ。
だから変な意味じゃない。だからあわててごまかすようなことじゃないんだけれど……やっぱりシロさんに面と向かって好きというのは、なんていうか……すんごい抵抗感しかない。
なんとなく気恥ずかしくて、そっとシロさんの反応をうかがうと――。
「え? なにそれ味見できんの? うまいの? あんたのオススメ? ふーん、じゃあ1個もらってみっかなー」
人がすごく真剣に答えていたというのに、まさかのシロさんは僕の話を無視して屋台の女の子と話し込んでいた!
「ちょっと! シロさん! 人の話聞いてる!?」
「おー、聞いてる聞いてる。つまりあれだろ? お前はあほたれだけじゃなくて、俺のこともしゅきしゅきだいしゅっきで一晩中寝かさないつもりってことだろ?
いっやーん♡ カインってば……ケ・ダ・モ・ノ♡」
「全然ちがあぁぁぁぁぁあうっ!!」
僕の叫びを完全に無視して、シロさんは屋台でまた何かを買っていた。
なんなんだよ、人がまじめに答えてるのに。ああもう! 考えて損した!
「ははっ! 今日のお前は叫びっぱなしだな! 喉ガラガラになるぞ。
ん、これやる。んで、帰ったらあほたれに言っとけ。しばらく外に出んなってな」
シロさんがたった今、屋台で買ったばかりの小さな袋を僕に手渡す。
僕はそれを受け取りながら、胸騒ぎを覚えていた。
……シロさん。なんで? なんでステラと同じことを言うの?
シロさんは、これから何をするつもりなの?
「じゃあな」
「行かないでよシロさん。ここにいてよ」
僕たちの声が同時に重なった。
シロさんを行かせちゃいけない。
ここでシロさんと別れちゃいけない。
今シロさんと離れちゃいけない。
そういう確信があった。
「ん? なんだよ。俺のことが好きすぎて一緒にいたいってか? なら……俺と来るか?」
「……え……?」
試すような――でも優しい目をしたシロさんが僕をまっすぐに見ていた。
今までもシロさんは、時折こんなふうに優しい目をする時があった。
僕はその目を、何度も見たことがあった。




