peace.4-1
僕とセリちゃんはインパスの街を出てから、ずっと街道を歩いている。
本当なら、こんなに堂々と街道を歩いてたら、きっと良くないんだと思う。
もしセリちゃんがインパスの街に立ち寄ったことがディマーズの人に知られてしまえば、きっとすぐに追いつかれてしまうからだ。
もしかしたら宿屋のおかみさんが、セリちゃんと一緒にいた僕のことまでディマーズに教えているかもしれないから――ということで、僕もセリちゃんとおそろいのフード付きマントに首巻きスタイルになった。
セリちゃんとおそろいがちょっと嬉しい……なんてことは思っちゃいけない。
ディマーズの人たちというのは、すごく凶悪な人たちを捕まえたり、やっつけたりする強い人たちで、――そして、とっても怖い人たちらしい。
捕まったらどんな目にあわされるか、分かったもんじゃない。
だけどセリちゃんは、その怖いと言われるディマーズのメンバーだったことがあるらしい。
つまりセリちゃんは、仲間だった人たちから追いかけられているということになる。
僕は思いきってセリちゃんに「前にディマーズにいたってホント?」と尋ねてみた。
セリちゃんは一言「そうだよ」と答えてくれた。
――でもそれ以上は、何も言ってくれなかった。
いつもの、僕の胸がつんってなってしまう――ちょっと伏し目がちな笑顔を浮かべたっきり、なんにも教えてはくれない。
ディマーズに捕まったらセリちゃんはどうなっちゃうんだろう。
セリちゃんに尋ねてみたけど、セリちゃんはまるで他人事みたいに「どうなるんだろうねー」という返事しかしてくれない。
「セリちゃん! 自分のことなんだから、もうちょっと真剣に考えた方がいいんじゃないの!」
僕がちょっと怒りめにそう言ったら、セリちゃんは笑いながら「ごめんごめん」と言って僕の頭をなでてくれた。
でも、笑ってくれたって、なでてもらったって――――そりゃあ、ちょっとは嬉しいけどさ……。いや、だめだ。ごまかされるもんか。
だって――僕は怖いんだ。
怖くてしょうがない……。
僕はセリちゃんと離れたら、もう生きていけない。またゴミに戻ってしまう。
宿屋のおかみさんが僕のことを見たときの目や、触られた手の感触を思い出してしまうと――いまだにゾッとする。
セリちゃんがいなくなったら、きっと僕はあの気持ち悪くてドロドロした中に閉じ込められてしまう。そしたらもう二度と逃げられない。
もうきっと、誰も助けてくれない――。
そんな怖さがインパスの街を出た後も、ずっと僕の中に残っていた。
「……カイン。もうちょっと早足で歩ける?」
「あ、ごめん。歩くの遅くて……!」
「謝らなくていい。ただ……風が湿ってきてる。雨が降るかもしれない。急げば降る前にどこかの休憩所に着けるかも」
僕は空を見上げてみた。今はまだすごくいい天気。
でもセリちゃんが雨が降るって言うなら降るのかもしれない。
僕はちょっと頑張って、駆け足に近い早歩きになった。




