piece.28-1
ブライトさんたちに挨拶をして別れると、僕はゼルヤさんに頼まれたおつかいを再開した。
地図を見ながらでも見落としてしまいそうになるくらいの小さな店が、おつかいの目的地である本屋だった。
狭くて奥細な店内の、さらに最奥にいる店主さんにメモを渡すと『世界珍泉・珍湖解析概論』という本が出てきた。確かにゼルヤさんの言った通りのマニアックな内容だ。
試しに中をめくってみたけど、小さな文字がぎっしりいっぱいに書かれていて、一気に読む気が失せた。僕には難しすぎる。
あらかじめゼルヤさんから渡された金額が多めだったことにも納得する。このマニアックで怪しい本は結構な値段のするものだった。
それでもおつりで、ちょっとした買い食いはできそうな額が残ったので、ありがたく使わせてもらうことにする。
何を食べようかなあ、なんて思いながら街をぶらぶらと歩いた。
とはいえ、リリーパスは広い。
僕は坂を上って、街を見渡せそうなポイントを探すことにした。上から探した方が屋台が集まっている場所を見つけやすいかもと思ったからだ。
その道すがらに、木製の長椅子が置かれた広場があった。
樹や花がきれいに整備されている。草木のいい香りが風に乗って僕のところまで届いた。
きっと街の人達の憩いの場所なのだろう。
大きな木のすぐ横に長椅子があり、ちょうどいい感じの木陰ができている。
昼寝をしたら気持ちよさそうな場所だった。
ちょうど今も男の人が一人、木陰の下の長椅子で気持ちよさそうに寝ている人がいる。
………………あっれー?
……あちゃー……。
どうしよう、すっごい見覚えのある人なんだけど……。
思わず僕の足が止まってしまう。
きっと顔も引きつっているはずだ。鏡がなくても分かる。
何度見たか忘れてしまうほどに見慣れてしまった無防備な寝姿。
ごろごろするのが何よりも好きな怠け者。
あーあ、気持ちよさそうに寝ちゃってさー。……なんか腹立つなあ、もう。
さすがにじっと見続けたせいで僕の視線に気づいたんだろう。
その人はパチッと目を開くと、まるで呼吸をするのと同じくらいに当然で自然な感じで僕へ声をかけてきた。
「カイーン、腹減ったあー。なんか食うもん買ってきてえー。すぐな、すぐ。
ほら、走って行ってこーい」
すがすがしいくらいにシロさんすぎるシロさんだった。




