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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第3章 布帛の赤 〜complication〜
30/395

piece.3-15



「えー? なんだよセリ、もうこの街出てくのか?」


 僕たちが出発準備をしているのを見たバルさんが、子供みたいに文句を言った。


「…………バル。お前の頭の中には、いったい何が入ってるか見てやろう……。ちゃんと大事なものが入ってるのか、一回頭かち割って調べてやる。

 最後のチャンスだ、私の名前を言ってみろ……ほらほらどうした?」


 セリちゃんはニコニコしながら、左手でバルさんの首を締め、右手では斧を握りしめている。


 本気で割る気だ……。僕には分かった。


 しかしバルさんはまったく動じていない。


「だって俺さぁ、もう仕事入れちまったから一緒についていけねえじゃんかよお。俺の用事が終わるまで待っててくれよぉ」


 口をとがらせたバルさんは、逆にセリちゃんの手をつかんで離そうとしない。

 大きなバルさんが小さなセリちゃんに甘えているのは、よく見るとすごく不思議な光景だ。


「行く先々で正体バラされたくないからな。もういい! 私は行く。絶対に追いかけてくるな」


 そう言うとセリちゃんは、バルさんの手をべちっと叩いて振りほどく。そして、まとめた荷物を背負うと、あっという間に出発してしまう。


 僕はさみしそうな顔をしているバルさんにあいさつを済ますと、駆け足でセリちゃんのあとを追いかけた。そしてセリちゃんの後ろ姿に声をかける。


「ごめんね。僕も途中からトーキって呼ぶの忘れてた気がする……。宿屋のおかみさんにバレたのも、バルさんのせいじゃなくて僕のせいだよ……ごめんトーキ」


 セリちゃんは歩きながら、僕の方を少し振り返って、申し訳無さそうな顔をした。


「カインに悪いことしちゃったのは私も一緒だから……。気づかなかったとはいえ、私の方こそカインをあんな人のところに残そうとして本当にごめん……」


「じゃあお互いに許しっこしよう?」


 僕がそう提案すると、セリちゃんは驚いたように目を丸くしたあと、とっても優しくほほえんでくれた。


「許しっこ……そっか。それ、いいね……。じゃ、お互いにもうチャラでいいの?」


「うん」

 セリちゃんが笑ってくれると、僕も嬉しくなる。


「……にしても、あのおかみさん、どうして急にあんなに毒が増えたんだろう……。そんな気配しなかったのに……。それとも私の調子が悪いのかなあ……」


「……? トーキ、どうしたの?」


「いや、なんでもない」

 セリちゃんは、小さく首を振った。


「ねえトーキ。これからどこに行くつもりなの?」


 街の出口についたあたりで、僕はセリちゃんに尋ねてみた。


「街道を西に進んで――――あの人の……ナナクサのキャラバンを追いかける」


 セリちゃんは睨むように、街道のずっとずっと先の方を見ていた。


「ん。分かった」

 僕はそれだけ答えて、荷物を背負い直し、フードを深めに被る。


「……カイン。何も訊かないの?」


 セリちゃんが僕の目をまっすぐに見つめる。

 僕はほっぺを思いっきり膨らませて、逆にセリちゃんを見返した。


 そりゃあもう、いっぱいあるさ。訊きたいことはそりゃあもうたくさんだよ。


 もしかしたら殺されるかもしれないのに、なんでナナクサを追いかけようとしてるのかとか、本当はセリちゃんはキャラバンの関係者なんじゃないかとか。『帰りたい』ってどういうことなのかとか。いろいろいっぱいあるよ。


 知りたいに決まってるよ。そんなの当たり前じゃん。

 でも、セリちゃんが僕に言わないってことは、きっとセリちゃんが言いたくないことでもあるんだと思う。


 僕が昔のことをあんまり思い出したくないみたいに――。


「いっぱいあるよ、聞きたいことも言いたいことも。

 でもここでずっと話を聞かせてもらってたら、キャラバンに追いつけなくなっちゃうでしょ?

 一緒にいる時間はいっぱいあるから、ちょっとずつでいいよ。少しずつでいいから、言えそうなことだけでいいから教えてよ。麦粥煮てるときとかさ……」


 僕は言いかけた言葉を、途中で飲み込んだ。

 急にセリちゃんが僕をぎゅーってしたからだ。


「……カイン……、ありがとう。…………だいすき」


 ――――え? だい……すき……?


 僕はそのあとはもう……なんにも覚えていなかった。


 頭がぼーっとして、なんだかふわふわしてて、気がついたら、麦粥も完食してて寝る時間になっていた。


 あれ? おかしいな? 僕、どうしちゃったんだろう……。


第3章 布帛の赤 <HUHAKU no AKA>

  〜complication〜 END


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