peace.26-18
「……カイン……。
ひどい……わらしの楽しみを奪うの……? せっかくカインと一緒におしゃけを楽しく飲もうと思ったのに……カインはわらしのおしゃけ、飲みたくないの?
わらしなんかのおしゃけ……飲みたくない……うあぁぁあん! うわわわぁぁん!」
うわあ! セリちゃんが号泣した!
シロさんの嘘つき! 全然言うこと聞かないじゃないか!
やっぱりシロさんの言うことは全然信用できない! もう二度と信用なんかするもんか!
「ごめん! セリちゃん泣かないで!
分かったよ、あのね、僕そんなにお酒強くないから、つきあうのはちょっとだけだよ。それでいい?」
泣いていたセリちゃんの顔がぱああっ! と笑顔になる。
「うん! もちろんだよー! わらしがカインにむりやり飲ませたりなんかしゅるわけないじゃーん!
じゃあね〜じゃあね〜、カインにはね〜、わらしのだいしゅきな特製カクテルをねー、のませてあげるねー!
んっとね、これとね、これをね……こうやってね……できたー!
よーし、味見ー!」
突然セリちゃんが口に含んだお酒をだぱあ、と全部吐き出した。
「セリちゃん!? どうしたの!? なにごと!?」
セリちゃんの服が葡萄酒ですごい色に染まってしまった。
あ~あ大変だ。すぐに洗わないと染みになってしまう。
「……ちがう……。これじゃない……こういう味じゃないのに……。
なんで……? なんでおんなじ味になんないの? これじゃない……これじゃないのにぃぃぃ……! うわぁぁん! うわわわぁぁん!」
せっかく泣き止んだセリちゃんがまた泣き出してしまった。
これは大変だ。レミケイドさんが逃げ出した気持ちが分かったような気がする。
僕もさすがにこの状況に頭が追いつかなくなっている。
とりあえずぐずっているセリちゃんをなだめるしかない。
「うんうん、分かったよセリちゃん。セリちゃんが思ってたとおりの味にならなかったんだね?
今見てて思ったけど、葡萄酒の中にオレンジを絞って混ぜても味がケンカしちゃうと思うんだ。
葡萄酒じゃなくて別の果実酒の方がいいのかもね。それより服、着替えたほうがいいんじゃないかな?
このままじゃ色が落ちなくなっちゃうし、こんな服着てるとまたブラッド・バスって呼ばれちゃうかもしれないし。
セリちゃん脱げる? 僕が今から洗ってきてあげるから……ほら、バンザイして」
セリちゃんは小さな声で「だって、オレンジと混ぜてたんだもん。おいしかったんだもん」とぐずぐずと泣きながら文句を言っている。
きっとセリちゃんはどこかの酒場で飲んだおすすめメニューを再現してくれようとしたんだろう。
口をとがらせていじけているセリちゃんがやけに子供っぽくてかわいかった。
「えーと、このままじゃ風邪ひいちゃうから、着替え着替え……」
あんまり女の人の着替えを漁るようなことはしたくはなかったんだけど、今のセリちゃんに一人で着替える力はなさそうなので、適当に着替えさせやすいようなネグリジェを見つけ出し、セリちゃんを振り返った――。
が、しかし。
……寝た……?
セリちゃんは上半身が下着姿のまま(例によって胸に布をぐるぐる巻いてるから大丈夫なんだろうけど)無防備な姿で爆睡してしまった。
「セリちゃん! さすがにダメ! それはダメ! ちゃんと何か着て! お願いだから服着る間だけでも一瞬起きて!」
このままでは僕の理性が一晩もたない。セリちゃんを揺さぶって声をかけると、セリちゃんはスーッと体を起こし、子供が返事をするみたいに元気よく片手を上げた。
「はい。しぇりちゃん起きまっしゅ」
あ、起きた。
僕はほっとして……それから何か大切なことを忘れていると、僕の中の何かが警告していた。




