peace.26-16
その日の夜はささやかなお祝いをすることになった。
セリちゃんが毒を克服できた日。もう部屋に閉じ込もる必要がなくなった日だ。
宿舎のみんなにお祝いしてもらってるうちに、なぜか僕はディマーズのメンバーに勧誘されていた。
ディマーズになると、この街では高い地位がもらえることとか、お給料がいいとか、休暇は何日もらえるとか、なんだかすごく魅力的な条件をいっぱい提示されたのと、少しお酒が回っているのもあって、僕は思わずはいと答えそうになっていた。
「おーい二代目ー、レミケイドさんが呼んでるー。すぐに客室に来いってさー」
誰かに声をかけられ、僕はいつの間にかセリちゃんがいなくなっていることに気づいた。
他の人と話し込んでしまったせいで、セリちゃんが部屋から出ていったことに全然気づかなかった。
セリちゃんのお祝いなのに……。
もしかして具合でも悪くなっちゃったのかな……。
心配になり急いで客室に戻ると、レミケイドさんが素早い動きでソファから立ち上がり僕と入れ違いで部屋から出ていこうとした。
「あとはまかせた」
逃げようとしたレミケイドさんの腕をとっさに捕まえることができたのは、たぶん奇跡だ。
「……なにがどう『まかせた』なのか、詳しく説明していってから出ていってくれませんか?」
僕がレミケイドさんに詰め寄ると、珍しく困った顔のレミケイドさんがソファに座っているセリちゃんへ視線を向けた。
べろべろに酔っ払って、顔を真っ赤にしているセリちゃんに――。
「んもー! レミケイドー! 私のお酒が飲めないってえのー?」
完全にセリちゃんができあがってしまっている。テーブルには空になった酒瓶が転がっていた。……これ、まさか一人で飲み干したの……?
「あとは彼がつきあうそうだ。自分はまだ仕事がある。すまないな」
そう早口で言い切るか言い切らないかのうちに、レミケイドさんは僕の手を素早く振りほどき出ていってしまった。
「――あ! レミケイドさん! ちょっと待って! これどういう状況!?」
「カーイーン! こっち来て! 一緒に飲もうよ~。一人で飲んでてもつまんないよ~。はいこれカインの分ね」
セリちゃんに呼ばれ、僕はセリちゃんの隣に座った。部屋はかなり酒臭い……。
僕の脳裏に、シロさんに酒場を連れ回された思い出がよみがえる。
シロさんは酔うと陽気になることが多かったけれど、セリちゃんがこんなに酔っ払ってるのを見るのは初めてだった。
酔っ払ったセリちゃんを見てると、なんとなくシロさんと雰囲気が似ていると感じた。
「はいこれはカインのおしゃけね。はいじゃああらためて……カンパーイ!」
僕とセリちゃんの飲み会が始まった。




