peace.26-14
それから毎晩、セリちゃんのガランタ治療は就寝時間を過ぎてから、収容区画3階の隔離部屋で行われた。
レキサさんが地元のコネで調達してきた貴重なお菓子が尽きかけるころ、残忍で屈強なアスパートの仲間たちはすっかり怯えて弱り、従順になっていった。
ゼルヤさん風に言うと、治療抵抗性が減弱した結果、治療への感受性が増大し、奏功だとかなんとか。
僕には難しすぎてよく分からなかったけれど、まあ要は順調ってことらしい。
収容区画の見張り番の人たちが、宿舎に戻ってきたときに雑談しているのを聞いた感じだと、アスパードの仲間たちはすっかり『収容区画の亡霊』に怯えきってしまっているらしい。
今までに殺した相手が亡霊になって、自分たちを地獄に道連れにしようとしていると思っているらしかった。
寝ているときにすぐ傍まで近寄ってきて、『頭を返して……』と頭をつかまれ、首をもがれそうになったと朝に大騒ぎになったとか。
ちなみにそれはゼルヤさんが、厳重な管理下で使用しなければいけない幻覚煙を使って、寝ている収容者の頭をつかんで回ったことで広まった噂だ。
僕も横でそれを見ていたし、一応ゼルヤさんのことは止めてみた。
もちろん僕が止めたくらいじゃゼルヤさんは止まらない。
こんな恐ろしい亡霊が出るような場所から一刻も早く離れたい。このままじゃ亡霊に殺される。助けてくれ。泣きながら訴える収容者が続出しているらしい。
ゼルヤさんの作戦は大成功だったと言える。
そんな劇的な効果もあったのだけれど、さすがに幻覚を起こさせる煙まで使ったのは悪ふざけが過ぎたらしい。
ゼルヤさんはその一件がばれてすぐ、レミケイドさんに連れて行かれ、偉い人に相当こってりと怒られたらしい。
それ以降、セリちゃんのガランタ治療の付き添いはゼルヤさんではなくレミケイドさんに交代した。
ちなみにレミケイドさんはレミケイドさんでかなり仕事が忙しいらしい。
セリちゃんの付き添いをしてる場合ではないと小言を言いつつも、必ずちゃんと立ち会ってくれていた。
「レミケイドってなんだかんだ言ってて面倒見がいいから仕事たくさん抱えちゃうんだよねー」なんてセリちゃんがレミケイドさんのことをからかって、横でレミケイドさんがなんともいえない顔でため息をついている。
そんな平穏な毎日が過ぎていき、アスパートの仲間たちの治療も、同じくセリちゃんの治療も着々と進んでいくのであった。




