peace.26-7
現れたゼルヤさんは、当然のように僕の肩の上に自分の肘を乗せ、親しげに話しかけてきた。
「よー、新入り。さっそくのVIPルーム入室おめでとーさん。
で、ブラっちに伝言。アダリーが風呂に入るっていうからこのタイミングで一緒に入れってさ。さすがにいくらなんでも新入りと風呂まで一緒には入れねえだろ?」
ゼルヤさんがニヤニヤ笑いながら僕の顔をのぞきこむ。
……え? セリちゃんと一緒にお風呂に……?
そ、それは――入れるのであれば是非とも……!
「あ、ホント? 宿舎に大きなお風呂ができたって聞いて、実はすっごく気になってたんだ。カインも一緒に行こうよ」
え? セリちゃんと一緒に?
いいの? 僕はもちろん、セリちゃんの見張り係をレミケイドさんから任命されているわけだから、どこにだってついて行くよ。
僕はセリちゃんと一緒に宿舎の大浴場へと向かった。
……。
まあ、当然だよね。
当たり前だけど、入浴する場所は男女別れていた。
『カインー? 使い方わかるー? 私教えに行こうかー?』
高い壁を挟んだ向こう側からセリちゃんの声が飛んでくる。
「くんなブラッド・バス! 来たら怒るぞ!」
僕以外のディマーズの人が、服を脱いでいた手を止めて怒鳴り返していた。
レキサさんまで顔を赤くして、大きな声で言い返していた。
「セリ姉! 僕がついてるから大丈夫だから! お願いだから絶対にこっち来ないでよね!」
服を脱いで扉を開けると、広い浴場があった。隣にはやっぱり女性側と仕分ける高い高い壁がある。この壁を乗り越えるのはかなり難しそうだった。
……別に……乗り越えようなんて考えてなんかないけどさ。
浴場の大きさは、リリーパスの街中にあったものほど大きくないけれど、ディマーズという一つの組織の敷地の中にあると考えると、ものすごく贅沢な設備だと思う。
「石鹸もあるよ、好きに使って」
レキサさんに言われたことが分からないでいると、レキサさんが褐色の塊を差し出した。
「石鹸、使うの初めて? たしかに高級品だもんね。
ここで使ってる石鹸は、ここに収容されてる人たちの更生プログラムの一環で作ってるものなんだ。ここで使っているのは、商品にできないような半端なやつだから遠慮しないで使ってよ」
レキサさんの説明が終わるか終わらないかのタイミングで、壁の向こうからセリちゃんの声が聞こえた。
『えー! すごいなにこれいい匂いがするー! カインー! 石鹸使ったー? すごいよこれ! 体がつるつるになるよー!』
『うるさいブラッド・バス! はしゃぐな! 大人しくしてろ! 死にかけの分際で!』
セリちゃんに続いて機嫌の悪そうなアダリーさんの声が聞こえる。
そんな声を聞きながら、僕とレキサさんは顔を見合わせて苦笑する。
セリちゃんは元気そうだ。アダリーさんが「死にかけ」と呼ぶけれど、今のセリちゃんは簡単には死ななそうに見える。声も張りが出てきたし、笑顔も増えた。レキサさんの叔母さんのおかげもあるのかもしれない。




