piece.25-12
ゼルヤさんが去ってしばらくすると、今度は廊下の奥から賑やかな女の人たちの話し声が近づいてきた。
食事当番のときに一緒にいた女の人たちの声も混ざっているみたいだ。
僕は声のする方を指で差し、セリちゃんへ教えてあげた。
「今日の朝から、ずっとあそこの人たちと話をしてたんだ。……まあ、一方的に話してるのを僕は聞いてただけなんだけど。
ここでのルールとか暮らし方とか、いろいろ教えてくれたんだよ」
セリちゃんは声のする方を黙ってじっと見つめたあと、静かに口を開いた。
「そっか、私もさっきまであそこにいる人たちにお産の手伝いしてもらってたんだよ」
近づいてくる女の人たちの中で、一人だけ目にとまった人がいた。
楽しそうに笑ってる女の人。
大きな口を開けて。
その笑い声を、僕は知ってる。
どんな怖いことでも、悲しいことでも吹き飛ばしてしまうような、明るくて力強い笑い声を――。
「レ……レネー……マ……」
女の人たちがぴたっと止まって僕を見る。
僕を見たレネーマの顔がこわばった。たぶん、僕の顔もこわばってるはずだ。
今日の朝、一緒に皮むきをしていた女の人がレネーマの袖を引っ張り、僕を指さした。
「ほら! この子がさっき言ってたかわいいボウヤだよ! 育ちの良さそうな顔してるだろ?
好きな女に会いたくてこんなとこまで来ちまったんだってさ! 健気じゃないか! だろ?」
僕はどうしていいか分からず、セリちゃんに助けを求めた。
レネーマがいるなんて聞いてない。
レネーマが近くにいるなんて無理だ。だって、だってレネーマは……!
「初めてのお産で大変な状態だった奥さんのことをね、一番支えて励ましてくれたのがレネーマさんだったんだよ、カイン。
みんなにキビキビ指示してね、すごくかっこよかったんだから。
でね、赤ちゃんが生まれて、それからずっとさっきまで私とレネーマさん、二人で大号泣してたの。……ですよね? レネーマさん?」
セリちゃんがレネーマに話しかけていた。まるで、普通の人と話すみたいに。
「……あれは、あんたにつられたのよ」
レネーマが気まずそうに視線をそらし、この場から離れようとする。
レネーマの隣にいた女の人が、逃げようとするレネーマの腕を取り、楽しそうに笑った。
「まったまた~! あんたの息子が小さかった時の自慢話、何回聞かされたと思ってんのよ! 子供が大好きなくせに~!」
「――あ! バカ! こんなとこで言うんじゃないよ!」
苦々し気に顔をゆがめたレネーマが、捕まれた腕を振りほどこうともがく。だけど女の人たちは気にせず楽しそうに盛り上がり始める。
「なによう! いまさら照れちゃって! 息子が大好きでしょうがないくせに!
えーっと、なんだったっけ? 『この子は私のところに来てくれた天使だ』『この子さえいればなんにもいらない』『この子のためならどんなにむごい目に遭っても生きていける』って……」
「うるさいよ! いい加減にしないと怒るよ!」
レネーマが顔を真っ赤にして怒るけど、周りの女の人たちは気にせず笑っている。
すごく……珍しい光景だと思った。
レネーマが女の人たちと一緒にいる。
僕は、レネーマが女の人と仲良く話しているのを見たことがなかった。
もしかしたら初めて見たかもしれない。




