piece.25-11
「あ、えっと、僕も今日……昨日? から、ここの1階でお世話になることになってて……」
「はあ? 1階ねえ……。で? どの辺が?」
ゼルヤさんが疑わしそうな目で、僕じゃなくてセリちゃんを見る。
セリちゃんも困った顔でゼルヤさんに肩をすくめて見せた。
「……うーん……私、調子が悪いせいかあんまり感じないんだ。でも……アスパードの毒が移ってるって……でもレミケイドが、程度も軽いから1階でいいだろうって言ってて……」
あ……、僕が寝ている間に、セリちゃんはレミケイドさんと二人でそういう話をしてたんだ。
全然記憶がないや。きっとセリちゃんに会えたせいで気が抜けてすぐに眠ってしまったのかもしれない。しかも、セリちゃんが寝るはずだったベッドまで占領して……。
ああもう、どうして僕ってこんなにダメダメなんだろう。
自己嫌悪で自分に腹がたってきた。
「はあ? それ不当拘束じゃんかよ! あーらーら、こーらーら♪ ボース―に言ってやろ~♪」
ゼルヤさんが楽しそうに歌い出す。
「やっぱりゼルヤもあんまり感じないよね? 私の感度が落ちてるわけじゃないよね?」
「いや、ブラっちが自分の毒のせいで人の毒が感じづらくなってんのは正解。んで、こいつからはそんなにヤバい毒の気配がしないのは当たり。
よって、オレは尊敬する先輩の落ち度を上司に報告する義務がある! ついでに、どう考えても収容しきれそうにない毒持ちご一行がこれから到着しちまうので、そっちも大至急で区画編成やんなきゃだから……まだ寝るなよブラッド・バス。自分で手を出した仕事の後始末くらい自分でやれ。それ終わるまで休むな。これ先輩命令」
真面目な顔で睨むようにセリちゃんのことを指でさし――肩をすくめて言葉を続けた。
「……って、いつものオレなら言うとこだけど、毒持ちに近づかない方がいいんだろ? オレが夜勤のときに代わってくれればそれでいいや」
ゼルヤさんの言葉は、きっとセリちゃんのことを気遣ってのものなんだろう。
セリちゃんは、ほんの少しだけ口をとがらせてぼやいた。
「ねえ、みんながそう言うせいで、私不眠不休の夜勤スケジュールになりそうなんだけど」
「仲間思いの連中ばっかりで嬉しいだろ。お前とレミケイドさんが抜けた後のオレらの大変さを思い知れ!」
セリちゃんの肩を叩いて去っていくゼルヤさんが、十分に離れて声が聞こえない距離になったくらいでセリちゃんはぼそっとつぶやいた。
「……そういういじわる言うからゼルヤはモテないんだよ」




