piece.25-8
「夜通しの見張りでクタクタだし、頭も痛くて最悪だったのにさ、一階の女の人が産気づいてるからお前も手伝えって、お産の手伝いに借り出されちゃってたの……。いやー、もう食事抜きだし、今の今まで大騒ぎで……。もう参った参った……あはは……。
私だって一回しか立ち会ったことないって言ったのにさ。どいつもこいつもビビっちゃって人に押しつけんだから、もう……!」
目の下には隈が朝よりもはっきりと出ていたし、声も疲れている感じだったけれど、セリちゃんの表情は穏やかだった。
ひとまずセリちゃんの具合が悪いわけではないことが分かって、僕は少しだけ安心した。
でも僕にはいまいち何があったのかよく分からなかった。
だって、セリちゃんが泣いてる理由が分からない。
「ねえセリちゃん……オサンって何?」
「ああ、お産っていうのはね、女の人が赤ちゃんを産むことだよ。
さっきね、赤ちゃんが生まれたんだ。元気な女の子だった。ほんとに元気な……っ、ほんとに……っ、ああもう……やっと涙が止まったと思ったのにぃぃ……。思い出したらまた……っ、ああもぉぉ……」
セリちゃんの目からボロボロ涙がこぼれていく。
突然セリちゃんが泣き出したので、僕はどうしていいか分からなくなってしまった。
「え……、どうしてセリちゃんが泣くの?
どこか痛いの? それとも何か悲しいことがあったの?」
もしかして赤ちゃんは元気だけど、産んだお母さんの方が死んでしまったんだろうか。
「そうだよね……どうして私が泣くんだろうね……。なんかね、自分でもよく分かんないんだよね。
でもね、なんかね……いろんな気持ちがあふれて止まらなくなっちゃうっていうのかな。もう制御不能なの、これ。
だけど私の他にも泣いてる人もいたし、お母さん本人も泣いてたし、そのせいでつられて泣いてる人もいたから、こういう時に涙が出るのって、そんなに不思議なことじゃないんだと思う、たぶん……」
「……そうなの?」
セリちゃんの言っている意味が僕には分からなかった。




