piece.3-12
「セリちゃん、セリちゃん。お薬だよ……飲める?」
僕が声をかけるとセリちゃんは、ほんの少しだけ目を開いてくれた。
「く……すり……?」
セリちゃんの目は、熱のせいで潤んでいる。
「うん、毒消しの薬草もらってきた。あんまりおいしくないけど、がんばって飲んでね。僕、すりつぶしてきたから……」
セリちゃんがわずかにうなづいてくれたので、僕はセリちゃんが体を起こすのを手伝って、匙ですくったドロドロの毒消しをセリちゃんの口に運ぶ。
セリちゃんの顔が険しくなる。
わかる。
僕も味見したから、わかるよセリちゃん。
死ぬほどマズいよね、これ。もう二度と口にしたくない感じ、すごくよくわかるよ。
でも僕はセリちゃんに早く良くなってほしい。
だから、心を鬼にしてこれを全部飲んでもらうから。
僕は匙で薬をもうひとすくいして、目をぎゅーっとつぶってプルプルとふるえているセリちゃんへ声をかけた。
「はいセリちゃん、口開けて」
「カイン……もう……無理。も……やめて」
「だめ。まだ一口しか飲んでないから」
僕は少し強引にセリちゃんの口の中へ匙を突っ込んだ。
セリちゃんが声なき悲鳴をあげる。
ごめんねセリちゃん。僕も本当はこんなことしたくないんだ。だけどこれはセリちゃんのためだから……。耐えて!
「カイン……? その顔……怪我したの……?」
「転んだだけだよ。はい、もう一口。がんばって!」
口を開いたセリちゃんの隙をついて、僕は匙をすばやく差し込んだ。
「……ふぇぇ……!」
セリちゃんの目から涙がこぼれていく。
なんだか僕がセリちゃんを泣かしているみたいで、すごく胸が痛い……。
でも、これはイジワルじゃなくて大事なことなんだ……!
「……カイン……? ほかに怪我は……」
「してないよ。セリちゃん? 薬飲みたくないからって僕の気をそらそうとしても無駄だよ。はいがんばって!」
何か言いかけたセリちゃんの口めがけて、僕はすばやく薬をすくって差し込む。
「……ふぇぇっ、ふぇぇん……!」
お椀の中の薬は半分くらいになってきた。ラストスパートだ!
「……カイン…………それもう……やだ……。リンゴ食べたい……あまいの……たべたいよぉ……っ」
「食欲が戻ってきたんだねセリちゃん。じゃあこれ全部飲めたらリンゴむいたげるから、がんばって全部飲んで」
「……ひぇぇん。やだ……っ、もぉやだよぉ……!」
僕たちのやり取りの声に気づいたのか、隣の部屋にいたバルさんがこっちの部屋に入ってきた。
「お、セリ起きたのか…………って、セリ…………泣いてんのか?
マジかよおいおい。すげえ貴重なショットだなー……じゃなくて、おい、カイン、やめてやれよ。かわいそうだろが。
なんだそのエグそうなやつは。ニオイもすげえな……うっぷ。
おいおいこの部屋すげぇ臭いぞ! その薬のニオイか?」
バルさんが分かりやすく顔をしかめて鼻をつまむ。
もう! せっかくセリちゃんが薬がんばって飲んでるのに! 邪魔しないでよ!
「バルさん黙っててください。いまセリちゃんががんばってるところなんです。あ、セリちゃんがリンゴ食べたいって言ってます」
「食欲が戻ってきたのか? やったなセリ! 待ってな! 適当に市場で買いこんできてやる」
「……バルぅ……。リンゴ……っ、ジンゴだべるぅぅ……っ。あと……! あまいの……っ、あまいのもだべるぅぅぅ……っ。うぅ、オレンジ絞ったのも飲みたいぃぃい……っ。うっ……うぇぇん……!」
鼻をすすりながらセリちゃんがバルさんにおつかいをお願いする。バルさんはどうしていいか分からないような困った顔をして何度もうなづいた。
「お……おう。分かった。全部買ってきてやるから。
ホント……すげぇレアだな……お宝ショットだな……すげぇ……」
「じゃセリちゃん、あと少しだから。一気に飲もう。ね!」
「……ひぃぃん」
子供のように泣きじゃくるセリちゃんに薬を飲ませるのは、ちょっと心が痛んだけれど、おかげでセリちゃんの熱は、その晩には一気に下がっていった。




