piece.25-3
「ごめんねセリちゃん、僕……、セリちゃんにどうしても会いたくて、夜になってからここに忍び込んだんだ。
ディマーズの人には内緒にしてるけど、中でシロさんとばったり会って、シロさんと二人でここまで来たんだ。一応……僕が一人でやったことにしてあるから、話を合わせてくれると助かるけど……」
セリちゃんは何度かまばたきをして、僕の言ってることを理解しようとしてくれてるみたいだった。
だけど――。
「もうカインってば。夢だからっておもしろいこと言うね。
私が兄さまに歯向かっていってこの程度で許してもらえるわけないって。だってほら、腕も足もちゃんと動くし、骨も折れたり外れたりしてないし、頭はめちゃくちゃ痛くてガンガンしてしょうがないけど、ちゃんとくっついてるし、兄さまと戦闘してこの程度で終わったことなんて今まで一度だってないから。だから夢なんだってば」
セリちゃんはまだこれが夢だと思っているらしく、笑って済まされてしまった。
ただ、頭が痛いせいなんだと思うけど、笑顔がどことなく疲れて乾いているように感じる。
ああもうシロさんのバカ。
シロさんが頭なんか思いっきり蹴るからだよ、もう。
どうしよう。なんかもう何から声をかけていいか分からなすぎる。
シロさんのせいでセリちゃんが夢の世界から戻ってこれなくなってしまう。
「セリちゃん聞いて。これは夢じゃないから。
僕はどうしてもセリちゃんに会いたくてここまで来たんだ。レッドやマップ、ママンやポーター、それにシロさんに協力してもらって」
「……レッド? マップ……ママン……ポーター……」
セリちゃんの顔つきが変わる。
ようやく夢じゃないって分かってもらえてきたのかも。
「セリちゃんが僕と離れようとした理由もレミケイドさんに聞いた。
だけどやっぱり僕はセリちゃんとは離れたくないよ。だから……僕も毒持ちとしてここにいるって決めたんだ。僕もここでセリちゃんと暮らす。セリちゃんとずっと一緒に」
「毒……持ち……? だって……カインに毒なんて……。
――まさか……私の毒が?」
セリちゃんの顔が青ざめていく。
「違うよ。セリちゃんの毒じゃない。アスパードに刺されたときと、それよりも前にマイカの街でレネーマに会ったとき……僕の中に変な虫みたいなのが棲みつくようになったんだ。
それがセリちゃんたちの言う毒なんだよね、きっと。
人にひどいことをしてしまいそうになる感覚……僕も何回かあったんだ……。ざわざわして、イライラして、自分の力で抑えきれない感じ……」
「カインに……アスパードの……毒……?」
「僕も自分の中にいる毒をなんとかする。セリちゃんと一緒にがんばりたい。だから僕、セリちゃんと離れなくてもいいよね? ここにいてもいいよね?」
セリちゃんは急に疲れ切ったような表情で目を閉じた。
そして両手で顔を覆うと、大きく息をついて小さくつぶやいた。
「……そっか……これ……夢じゃ、ないんだね……」
セリちゃんはそのまま、気を失うように再び眠りに落ちていった。




