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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第24章 不撓の黒 ~infiltration~
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piece.24-8



 僕の頭の中で、レミケイドさんに負けて、逃げていくシロさんの後ろ姿が浮かんだ。


 ダメだ。シロさんに任せてばかりじゃダメだ。


 僕はそっとドアをうかがう。

 見張り番の人が飛び出してきた扉――。今はもう、鍵は開いてるはずだ。


 僕はシロさんの命令を無視して、扉へそっと近づいた。ドアノブに手をかけ、ゆっくりと引いたその時、僕の首に腕が絡みつき、強い力で締め上げてきた。


 きっとシロさんと戦っていたはずの見張り番の人だ。

 この人、すごい……。

 シロさんを相手にしてるのに、僕の動きにまですぐ反応するなんて――。


「首の骨を折られたくなかったら大人しくしろ」


 わずかに呼吸を乱した、見張り番の人の声が僕のすぐ耳元で聴こえた。


 僕の喉が苦しくなって、息ができなくなったのは、締め上げられたせいだけじゃなかった。


 その声を――僕が聞き間違えるはずがなかった。


「……セ……セリちゃ……!」


 かろうじて絞り出した声に、僕を締めていた腕が緩んだ。


「――カ……? ――カペー!!」


 なぜかセリちゃんが変な声を出したと思ったら、遥か遠くまで転がりながら吹っ飛んでいった。


「カイン、ナーイス! お前があいつの気を引いてくれたおかげでめちゃくちゃきれいにクリティカル入ったぞー」


 上機嫌のシロさん。吹っ飛んだセリちゃん。クリティカル……?


 僕は頭をフル回転して、今起きた出来事を理解した。


「シロさん! あの人セリちゃんだよ! 蹴ったの? 思いっきり蹴ったのっ?」


「知ってるし。動きのクセがまんまあいつだし。んなことよりカイン、俺の今の蹴り見た?

 むちゃくちゃきれいにあいつの側頭部はいったの! ね! 見た? 見た? 今まで蹴り飛ばした中で一番華麗に決まった気がするんだけどー!

 てか、あいつすげえ変な声出して吹っ飛んでたよな? 舌でも噛んだんじゃねえ? わー、ウケるー」


 ものすごく楽しそうなシロさん。自分の蹴りの威力を全然分かってない。いや、分かってて言ってるのか。どっちにしてもたちが悪い。


「笑い事じゃないよ! シロさんの蹴り、威力がおかしいんだってば! 頭なんか狙って蹴っちゃダメだってば!」


 ふっ飛ばされたセリちゃんのところまで、僕はあわてて駆け寄った。

 廊下の奥までセリちゃんは吹っ飛んでいた。

 白目を向いて気絶していたけど、セリちゃんの息はちゃんとあった。

 ……良かった。生きてた……。


「……うわー、このマヌケヅラ……萎えるわー……。

 なあ……お前さあ、本気でさあ、これのどこがいいわけ?」


 蹴り飛ばして気絶させた挙げ句にこの暴言……。シロさん、最低すぎる。


「うるさいなあ! ほっといてよ!

 ……セリちゃん。セリちゃん、しっかりして! お願い起きて!」


 セリちゃんの顔をペチペチ叩くけど、意識が戻る気配はない。


 どうしてこんなことに……。


 だいたいセリちゃんは、拷問部屋にいるんじゃなかったの?


 なのに鍵が開いた瞬間、突然飛び出して僕たちを攻撃してきた。

 これじゃまるでセリちゃんがここの見張り番みたいだ。


 それにこれだけ騒いでるのに、ここの見張り番の人が出てくる気配がない。

 ……ということは、やっぱりセリちゃんがここの見張り番ってこと?


 頭が追いつかない……。


「さあてと、無事にゴールに着いたってことでこれで解散だな。

 じゃあなカイン」


 現れる時も唐突だったけど、いなくなる時も唐突だ。

 シロさんはさっさと歩きだしてしまう。


「……え? 待ってよシロさん!」


 なぜか呼び止めてしまった。呼び止めたところで、自分勝手なシロさんが待っててくれるはずなんかないのに。


「なんだよ、まだなんか用があんのか?」


 でもシロさんはあっさり立ち止まって振り返ってくれた。


 用なんかない。

 でも……なんでだろう。

 このままシロさんと離れたくないような、そんな気がしてしまった。


「セリちゃんと……話とか……してかないの? 昔からの知り合いなんでしょ?」


 シロさんが笑った。


「こいつとわざわざ話すようなことなんか何もねえよ。じゃあな」


 そう言ってシロさんは行ってしまった。


 僕は遠ざかっていくシロさんの背中をずっと見つめていた。

 シロさんの姿が闇の中に溶けるまで。ずっとシロさんの背中から目が離せなかった。


 シロさんの最後の笑顔が目について離れなかった。


 僕に向ける意地悪な笑い方でもなく、女の人に向ける甘い笑顔でもなく、あんまり見たことがないような穏やかで優しい笑顔だった。


 でも僕はその笑顔を、なにかのタイミングで見た気がする。

 いつ見たのかは、思い出せない。


 でも――。


 すごく優しい笑顔だったのに、僕はなぜだか胸が詰まって苦しくなるのだった。

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