piece.3-11
僕のことをさんざん蹴って痛めつけてくれた男の人は、そのあとは嘘のように、あっさりと僕を案内してくれた。
なんというか……気持ち悪くなるくらい親切に……。
別に聞いてもいないのに、その人は懇切丁寧に毒の説明してくれた。
「団長様が俺のコレクションから勝手に拝借しやがった毒は殺すタイプの毒じゃねえよ。ま、拷問用のやつだから死にそうなくらい苦しむけどな。
だから毒消しを食わなくても、あと数日ほど苦しめば終わるっちゃあ終わる。蹴られ損だったなあ、お前」
笑いごとじゃない話なのに、その人は何が面白いのかずっと笑っている。
でもまあ情報としてはありがたいので、僕は素直に聞いていた。せっかく教えてくれるんならと、さらに質問してみる。
「毒消しを飲ませたら、すぐに治るんですか?」
僕はその人の後ろ姿を眺めながら、後ろをついていく。
「ああ、その日か翌日にはな。ただ……拷問級にマズいけど」
その人はそう言うと、また喉の奥で笑いをかみ殺している。人が苦しんでるっていうのに、笑うなんてひどい人だ。
僕は相手がこっちを見ていないのをいいことに、思いっきり睨んでやった。
「あの……ちなみに団長さんって、今どこにいるんですか?」
僕が声をかけると、その人はぴたりと足を止め、無表情で僕を振り返った。
う……怖い……。
僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったんだと気づき、あわてて自分の口を両手で押さえた。
「団長様は俺のことが嫌いなのさ。俺がここにいるときは、ふらっと街にでも出かけちまってるんじゃねえの」
怒らせたのかと心配になったけれど、声は怒っていなさそうだった。
というよりも、この人……キャラバンの中でどういう立場の人なんだろう。
「あの……えっと、お兄さんも……」
「――ぶっ! お兄さん!?」
僕の言葉を遮って、その人はまた吹き出した。
この人はいちいち僕の言うことに笑い過ぎだと思う。
なんか……結構、失礼な人だ。
「……名前わかんないんだって! じゃあ、なんて呼べばいいのか言ってよ!」
その人はしばらく考え込む仕草をし、にやりと笑った。
「俺は『シロちゃん』だ。よろしくな」
「…………シロチャンさん?」
「さんをつけるなよ。シロちゃんって呼べって。ほら」
にやにや笑いながら、【シロちゃん】さんは僕にむりやり名前を呼ばせようとしてくる。
なんか微妙にセリちゃんと呼び方が似てて、すごく嫌だった。
「……え、嫌だけど。それにそれ、本当の名前?」
はっきりと断ると、思ったとおりシロちゃ…………もう、シロさんでいいや――――は吹き出した。
「いい! お前、いいぞ! すげえ気に入った!
見た目も悪くねえしキャラバン入れよ! 俺が直々にしごいてやる。んで次期団長にしてやる。光栄に思え!」
シロさんは馴れ馴れしく僕の肩に肘を置きながら、苦しそうに笑い続けている。
「絶対やだし」
シロさんは失礼なことに、また僕の言葉に吹き出していた。
しかも僕の背中をバンバン叩きながら、笑いをこらえている。
本当に失礼なやつだ!
僕はシロさんのことが大っ嫌いになりそうだった。




