piece.24-6
「……シロさん、もういい。もうやめよう。その人セリちゃんの仲間だから、もうひどいことしないで」
だけど、シロさんはまるで子供みたいに無邪気な顔で僕に振り返った。
「当たり前だろ? 見てみろって。傷ひとつ付けてないだろ? めちゃくちゃ手加減してるって、こっちは。なんてったってかわいい妹分が世話になってるとこなんだからさあ、俺だって礼儀は尽くすさ」
相手を拷問しといて尽くす礼儀ってなんだ?
僕の頭が追いつかなくなっているうちに更なる仕打ちがディマーズのお兄さんに襲いかかる。
「はい、片手終了~。これがまあレベル1ってとこな。やっぱさあ、時間に余裕があるときってさあ、手の指から一本ずつ攻めるのが好きなんだあ、俺。なんで指が好きかって? 指って全部で10本あるだろ? 1セットで10回体験できるからお得だろ? 足の指まで入れれば20回だ。で、どうする? ①片手のみコースでこのままレベル2にあげる、②両手コースでもう片方の手にいく、③両足追加コースで20回同じレベルを体験する。さあ、お客さ~ん、どれにします~?」
怒りに震えたディマーズの人がシロさんを睨んでいる。
僕もさすがに言いたいことがあった。
「シロさん、時間に余裕なんかないよ。悪いけど、そういうことするんなら僕は先に行かなくちゃ。だからシロさんもそんなことやめて……」
その人を解放してあげて。
そう続けようと思っていたけど、シロさんの返事の方が早かった。
「分かった。お前がそう言うんならしょうがないな」
シロさんがしょんぼりと肩を落とした。
良かった……。
シロさんにもひどいことをしてる自覚があるんだもんな。シロさんだってこんなことしたくてしてるわけじゃない。お互いにいい思いもしないし、ここは話し合いと説得で――。
「気は乗らねえけどカインのおねだりならしょうがねえもんな。④最短決着コース、眼球潰し、オーダー入りましたあ」
「入れてないっ!」
好きじゃないと言っているくせに満面の笑顔のシロさんをなんとか取り押さえ、僕は伝説の棒を危険人物から奪還した。
そして散々ひどい目に遭わせてしまったディマーズのお兄さんと向き合って頭を下げた。
「あの……こんなにひどいことして、本当にごめんなさい。僕、今までセリちゃんとずっと一緒にいたカインって言います。レミケイドさんに聞けば、事情はみんな知ってると思います。
僕、どうしても、今こうやってセリちゃんと離ればなれでいることに納得できなくて、どうしてもちゃんとセリちゃんと話がしたくて、だから来たんです。
それだけなんです。ただ会わせて話をさせてくれれば帰ります。だから、セリちゃんがここにいるのか、拷問部屋でひどいことをされてる女の人がセリちゃんなのか、教えてくれませんか?」
僕の目を見つめていた男の人が、静かにうなづいた。
僕はシロさんに目配せして、首の針を抜いてもらう。
針を抜かれた男の人は、身震いしながら針の刺さっていた場所を心配そうにさすっている。
「安心しな、もう声は出る。ただし、騒いだら即首を切るからそのつもりでな」
そう声をかけるシロさんのことを露骨に警戒しながら、ディマーズの男の人は僕に向き合い口を開いた。
「君の話は聞いている。
ブラッド・バスは君の言うとおり、三階の収容区画の一番奥にいる。ただし、三階の収容区画は内側から鍵をかけている。中に入りたいなら今夜の見張り番を説得して入れてもらうんだな」
僕はうなづいてすぐにその場をあとにし――たかったのに、シロさんがなぜか僕の腕をつかんだのだった。




