piece.24-1
闇に身を潜めて、ここまで来た。
昼間にレッドと見に来た、ディマーズ拠点の外周に生えている大きな木のところまで。
夜の街ではディマーズの巡回を何回も見かけた。
レッドたちの話だと、内部で変な問題が起きていなければ、警戒は街の方を優先にしているらしい。
だからディマーズの敷地内の警戒は、最低限の人員しか割いていない。
ただし街の巡回に出ているのは、ディマーズの中でも下っ端のメンバーがほとんどらしく、裏を返せば建物内には階級が上の凄腕メンバーが集中しているということだ。
状況が好ましくなければ、深入りしないで偵察だけで帰るつもりだった。
警戒レベルを上げて、敷地内の巡回を増やしたくはない。
配達の仕事でディマーズの敷地の中まで入ることのできるポーターでも、昼間の巡回の情報しかなく、夜間の見張り配置や巡回ルートは分からないらしい。
情報がほとんどない以上、無茶はしないつもりだった。
それでも、今の僕ができる最大限の努力はしたかった。
日中の巡回ルートは頭に叩き込んできた。
夜も同じルートで巡回する可能性に賭け、一か八か侵入してみるつもりだった。
建物の配置も頭の中に入っている。もちろん暗記だ。
もし僕が捕まって、建物の地図が見つかれば、レッドたちにも迷惑がかかる。
敵の手に渡ると不利になるものは持たない。
持つのであれば、すぐに証拠を消せるようにしておく。
それができないなら、最初から形のある状態で持つな。
マップやポーターがセリちゃんに言われた言葉らしい。
そんなことを言ってるセリちゃんを想像しようとすると、なぜかセリちゃんじゃなくて、シロさんしか頭に浮かばなくなってしまうから不思議だった。
さて、と――。
これ以上考えていてもしょうがない。
あとは実際に行動してみてどうなるか、だ。
さっそく木に登り、ディマーズ敷地内の明かりの位置を観察する。
建物の周辺は明るいけど、外壁付近を見る限り門の場所以外に光源はない。正面門から離れてしまえば警戒レベルは低そうだ。
暗さに目が慣れてきたので、距離を測って外壁上部に飛び移ってみた。
分厚くて頑丈な壁だけあって、足場に十分な幅があった。しばらく壁上を渡って目的の建物に接近することにする。
もちろん目指すのは拷問部屋がある建物だ。
収容者区画。
それが拷問部屋のある建物の呼び名だった。
毒持ちの収容者をその重症度に応じて選別し、隔離しておくための区画らしい。
気配を消し、様子をうかがいながら慎重に目的の場所を目指す。
敷地内を巡回しているメンバーはほとんどいないようだ。
あっけないくらいに、あっさり建物に近づくことに成功した。でも油断はできない。
収容区画は第一級から第三級まであって、階ごとに級分けされている。
ディマーズの敷地内で一番物騒な建物だから、中の警備が一番多いのがその収容区画だろう、というのがポーターの推測だった。
建物の構造は3階建て。
1階にはもっとも軽度で、解放待ちの毒持ちたちが収容されている。必然的に警戒レベルは低くなる。
拷問部屋は第一級収容者がいる3階だ。
更生不能。処刑待ち。
そんな毒持ちたちを隔離する階だと聞いた。
そこに――セリちゃんがいる。




