piece.23-11
「セリさんがいるのは、ディマーズの収容者隔離専用の建物だ。
俺が中のやつらに話を聞いた感じだと……セリさん……相当きつい治療をされてるらしい……」
大きな物音がして、みんなが僕のことを見ていることに気づいた。
自分が椅子を倒して立ち上がっていたことに、後で遅れて気づく。でも今はそんなこと、どうでもよかった。
治療なんかしたらセリちゃんが死んでしまう……!
助けるって言ったのに。
死なせないって言ったのに。
レミケイドさんの言うことは何から何まで嘘ばかりだ。
部屋を飛び出そうとした僕の前に、大きな何かがぶつかった。
睨み上げると、ママンが厳しい顔をして僕の行く手を阻んでいた。
「通して。セリちゃんを助けに行かなきゃ」
だけどママンは首を横に振り、決してそこをどいてくれようとはしない。
「ダメだよ。君は今、すごく頭に血がのぼってる」
「うるさいな! 関係ないだろ! そこを通せよ! セリちゃんを……」
「頭に血がのぼってる大馬鹿者はー!」
突然ママンが大きな声を出したので僕は思わず一歩後ろに下がってしまった。
「大体ミスってみんなの足を引っ張ってー、そんで最後は罰ゲーム〜ってか!」
レッドがママンの後に続く。
「そんなこんなでセリさんの罰ゲームをやったことあるやつ、手〜上げて〜!」
その場の全員が手を上げた。
「……ってことだよカイン。
こういうときこそ冷静でなきゃな。見張りのルートや交代のタイミング、警備が甘い隙の洗い出し……やることはまだまだある。ここですぐお前が動いたら全部台無しだ。悪いがもう少しお前には大人しくしててもらわないとな」
レッドの言葉を聞いて、僕の頭に浮かんだのは、何故かセリちゃんじゃなくてシロさんだった。
シロさんの顔が頭に浮かぶと、なぜかふっと冷静になれた。
「……罰ゲームって例えばどんなの?」
僕が尋ねると、みんな楽しそうに話をしてくれた。
「レッドの作った新作パンを残さず食べるとか。あれはつらかったな……」
「ディマーズの雑用を10日間手伝うとか。死ぬかと思ったぜ」
愉快に笑うみんなを見て、僕はなんだか不思議な気持ちで再び席につき直した。
さっきまでの焦燥感は消え、僕は落ち着きを取り戻していた。
・・・
ママンの店での長い昼食を終えた僕は、みんなと別れて一人でリリーパスの街で買い物を済ませた。
レッドの家に帰ると、荷物と残ったお金の管理をお願いすることにした。
「目の毒だな、こりゃ……」
大金の入った革袋を、困ったように眺めるレッドに僕は言った。
「どれくらいここでお世話になるか分からないから、宿代ってことで預かっててよ。僕は僕で必要な分はもう抜いてあるからさ」
シロさんと旅をしているうちに、軍資金はお金だけじゃないというのを学んだ。
換金価値が高くて、携帯性に優れた物。
そういうものを買っておいて、お金に困ったら換金する。
その方が身軽に行動できる。そんなことをシロさんから教わった。
レッドのことを信用していないわけじゃないけれど、お金は人をダメにすることもある。
僕自身が大金を持って出歩くのが嫌だったのもあるし、なにがあっても大丈夫なようには最低限の準備はしておいた。
もし仮にレッドがこの袋に入ったお金を全部自分のものにして、僕を追い出したとしても困ることがないように――そういう準備だった。
「試しやがるなあ……。なめんなよ、これでもし俺らがカインの金に手をつけたなんてセリさんに知れたら――」
レッドの言葉を引き継いだのは、赤ちゃんをおぶって夕食の支度をしている奥さんだ。
「こっわ~くて、いじわる~な罰ゲームだもんね~」
その言葉の割に奥さんの声はとても楽しそうだ。ママンの店でも、みんな楽しそうに罰ゲームの話をしていた。
セリちゃんの罰ゲームは、シロさんの罰ゲームに比べて、ずっとずっと優しいんだと思う。
でも僕はその言葉を聞いて安心する。
きっとこの二人は大丈夫。信用できる。
そんな確信があった。
「カイン、ちょっと早いけど風呂に行こうぜ。案内してやるよ」
僕はレッドに連れられて、公衆浴場へ行くことになった。




