piece.23-7
「始まった始まった」
レッドはそんなマップを苦笑いしながら眺めている。どうやらいつものことらしい。
そんな中、ママンが僕たち用に料理を運んで来てくれたので、口をつけながらマップのことを観察する。
僕は目を疑った。
大きな皿の上で並べ替えられていく料理――。
その配置が――どこかの地図に見えてきたのだ。
レッドが飲み物片手に、僕へこの状況を説明してくれる。
「すげえだろ。こいつ記憶力が半端ないんだ。一度見た図は絶対に忘れない。この街の地図だって完璧に描けるし、数年前に建築の手伝いで見せてもらったディマーズの要塞設計図もこの通りだ」
設計図?
じゃあ、今この皿の上に出来上がり始めているのは、ディマーズの敷地の地図?
「いらっしゃいませー!」
個室の外からママンの大きくて野太い声が響くと、レッドの顔色が変わった。
「マップ! 食うぞ!」
血相を変えてスプーンを手に持ったレッドが、せっかくマップが作ってくれたディマーズの地図をぐちゃぐちゃにかき回す。
「レッド! なにするんだよ! せっかく……!」
僕の言いかけた文句は、レッドに無理矢理つっこまれた何かの食材で封じられてしまう。
……あ、でもこれ、すごくおいしい……。
僕が口いっぱいの食べ物を頬張っていると、ノックもなしに扉が開いた。
僕は口の中がいっぱいになっていることに感謝した。
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入ってきたのは、さすがに見慣れた黒い制服を着た二人組。
ディマーズのメンバーだった。
「すんませーん! 個室は今日、俺らが先に予約入れちゃったんで―、そちらさんの愚痴飲みはまた別の日にしてくださーい」
レッドが食べ物をくっちゃくっちゃと口に入れたまま、なかなかに失礼な応対をする。
「三人か? その割には料理の量が多いな。まだ仲間を呼んでるのか?」
ディマーズが冷たい眼で僕らを睨む。
「どーっすかね、せっかくだしカインから旅の土産話でも聞かせてもらおうって話になったんすけど、みんな忙しいっすからね。来れるやつだけくるんじゃねえっすか?」
レッドが慣れた様子でごまかしている。
「ほう、じゃあさっきまでは何の話をしていた?」
ディマーズの一人が僕を睨む。
まるで尋問だ。この場の空気が静まり返る。
でも不思議と怖くはなかった。
怖さで言ったらアダリーさんの方がずっとずっと怖かったし、威圧感ならレミケイドさんの方がもっと冷たくて重たい空気だった。
もちろんこの二人もディマーズだけあって、緊張はする。
でも怖くはない。
僕はこの後、何を口にするべきなのか、冷静に考えることができた。




