piece.23-6
「今日の昼飯はここな」
そう言ってレッドが案内してくれたのは、セリちゃんが僕においしい店だと薦めてくれた食堂だった。
看板には『ママンの店』と書かれている。
レッドは店に入ると奥の厨房に声をかける。
「ママーン、これからマップとウエポンが来ると思う。奥の部屋いい?」
厨房の奥からぬっと現れたのは、体が大きくてスキンヘッドの強面なお兄さんだった。
もう初見で絶対に怖い人確定な見た目だ。絶対に薄暗い裏路地とかにいる。そういう感じだ。
「えー? 本当? じゃあポーターも来るかなあ?
何人分用意したらいいと思う?」
……声が野太いのは見た目通りなんだけど……。
なんか……なんか、言い方がかわいい……。
ママンと呼ばれた大きなお兄さんの大きなギャップに衝撃を受けた僕は、ママンさんを見つめたまま固まってしまった。
「とりあえずマップの好物は確定。カイン、なんかリクエストあるか?」
レッドに声をかけられて我に返った。
「あ……じゃあ……えっと、白身魚のなんとか焼き……」
とっさにセリちゃんから聞いていたメニュー名を口にすると、レッドが嬉しそうな顔をした。
「ああそれ。セリさんが好きなやつな。ここのパン粉、うちのパン粉だから。うまいぞー」
「うちがパン粉買ってあげないと、売上厳しいくせにー」
ママンさんがボソッと口を挟んだ。
やっぱり野太い声なんだけど、なんか言い方がかわいい……。なんだろうこのギャップ、ちょっとクセになりそう。
「うるせー! んなことねえよ!」
ふてくされているレッドと一緒に、奥の個室に案内されてしばらくすると、ちょっと変わったタイミングでノックする音が聞こえた。
「今日はいい天気か?」
レッドがドアに向かって声をかけた。
「瓦礫の雨だね」
ドアの向こうから声が帰ってきて、ボサボサ頭の疲れた顔をしたお兄さんが入ってきた。
……誰だろう。でもレッドの仲間だっていうのはなんとなく分かった。
「マップ、ウエポンは?」
「ディマーズが警戒してるっぽいから別れてきた。僕の大好物、食べられるんでしょ? ……まだ?」
マップと呼ばれたお兄さんは落ち着きなく頭をバリバリとかいている。
「今ママンが必死こいて作ってるよ。待ってろって」
レッドが僕にマップを紹介してくれる。
「カイン、こいつがマップ。もちろんあだ名だからいちいちさん付けしなくていいからな。
こいつはこの街の立て直し全般に関わってる。もちろん新ディマーズのギルドもな。俺らの中では、中の様子についてダントツに詳しい」
マップはそわそわした様子で目を落ち着きなく動かしながら、「ポーターもだけどね」と返事をする。でもその声はどこか、心ここにあらずって感じだった。
そこにどんっと大きな音がして、大きなママンがとても大きな皿を持って、ぬっと現れた。
「マップお待たせー。これで足りる? はいどうぞー」
マップの顔がみるみる興奮していく。手なんか興奮しすぎて震えていた。
「ぬあぁぁぁぁぁぁ――――っ!!」
マップは皿が置かれた途端、狂ったように具材を並べ替え始めた。
……え? 食べないで並べてるだけ……?
僕はただ、その異様な光景を見つめるしかなかった。




