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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第23章 旧懐の黒 〜cooperation〜
242/395

piece.23-1

 


 喉が痛い。

 声も出ない。


 手が痺れて感覚がない。

 なんで手が血まみれなんだ?

 指もうまく動かないし……。


 ……ああ、そうか。

 扉を殴りすぎたからか……。


 でももうそんなこと、どうでもいいや……。


 行くあてなんかない。

 この先、生きていく目的もない。


 セリちゃんがいなければ、僕は生きてる意味なんてないんだから。


 またゴミに逆戻りか……。


 その辺の道端で、僕はまたゴミに埋もれて生きる。

 もう二度とゴミになんか戻りたくなかったのに……。


 歯を食いしばっても、涙は止まらなかった。


 壁に背を預け、ずるずると座り込んだ。


 見上げると高い建物たちが、僕を見下ろすように取り囲んでいる。

 きっとあいつらは、僕のことを嘲笑(わら)っているんだ。汚いゴミが泣いてるぞって。


 僕を嘲笑う建物たちの陰から、わずかに月が見えた。

 建物たちにばれないように、そっと物陰から僕の様子を心配しているみたいに。


 真っ白で淡くて優しい光。

 もう、二度と僕の手には届かない優しい光――。


 セリちゃん……。


 なんで……?

 なんでなんだよ……。

 ずっと一緒にいるって言ったのに。

 セリちゃんがいなくちゃダメなんだって言ったのに……。


 苦しくて、息が止まりそうだった。

 このままもう、ここで死んでしまえばいいのかもしれない。


 少しでもセリちゃんの近くで――……。



 誰かの駆けてくる足音が聞こえ、僕はあわてて涙を拭った。

 そのまま顔を伏せ、目だけで様子をうかがう。


 僕よりも少し年が上くらいの男の人がディマーズの門の前で立ち止まった。手には何か荷物を抱えている。


「すんませーん! 俺でーす! 誰かいますー? 開けてくださいよー!」


 慌ただしく扉を叩く若い男の声で、軋んだ音を立てて門が開いた。

 僕がずっと怒鳴っても殴っても、びくともしなかった扉が開いた――!


 頭で考えるよりも先に、体が勝手に駆け出していた。

 だけど扉の手前で再びディマーズに取り押さえられてしまう。


 相手を罵倒しようにも、僕の喉はとっくに潰れていて何も声が出ない。


「しつこいな、まだいたのかお前は。いい加減どっか行ってくれって。

 そんでうまい飯食ってベッドでたっぷり寝てくれ。ここの通りは宿屋じゃないんだぞ。勘弁してくれよ。

 ……で? お前の方はいったい何の用だよ」


 僕を羽交い絞めにしたまま、ディマーズの門番が男の人を問いただす。

 イラついた声を出すディマーズの門番の圧力に負け、若い男の人はわずかにたじろいだ表情を見せる。


「あ、えーっと、仲間が……セリさんとレミケイドさんに似た人を見たって聞いたんで……。

 二人とも戻って来たのかなー……なーんて思って」


 僕は思わず顔を上げた。

 この人……今……セリちゃんって言った……? もしかして、セリちゃんの知ってる人?


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