piece.23-1
喉が痛い。
声も出ない。
手が痺れて感覚がない。
なんで手が血まみれなんだ?
指もうまく動かないし……。
……ああ、そうか。
扉を殴りすぎたからか……。
でももうそんなこと、どうでもいいや……。
行くあてなんかない。
この先、生きていく目的もない。
セリちゃんがいなければ、僕は生きてる意味なんてないんだから。
またゴミに逆戻りか……。
その辺の道端で、僕はまたゴミに埋もれて生きる。
もう二度とゴミになんか戻りたくなかったのに……。
歯を食いしばっても、涙は止まらなかった。
壁に背を預け、ずるずると座り込んだ。
見上げると高い建物たちが、僕を見下ろすように取り囲んでいる。
きっとあいつらは、僕のことを嘲笑っているんだ。汚いゴミが泣いてるぞって。
僕を嘲笑う建物たちの陰から、わずかに月が見えた。
建物たちにばれないように、そっと物陰から僕の様子を心配しているみたいに。
真っ白で淡くて優しい光。
もう、二度と僕の手には届かない優しい光――。
セリちゃん……。
なんで……?
なんでなんだよ……。
ずっと一緒にいるって言ったのに。
セリちゃんがいなくちゃダメなんだって言ったのに……。
苦しくて、息が止まりそうだった。
このままもう、ここで死んでしまえばいいのかもしれない。
少しでもセリちゃんの近くで――……。
誰かの駆けてくる足音が聞こえ、僕はあわてて涙を拭った。
そのまま顔を伏せ、目だけで様子をうかがう。
僕よりも少し年が上くらいの男の人がディマーズの門の前で立ち止まった。手には何か荷物を抱えている。
「すんませーん! 俺でーす! 誰かいますー? 開けてくださいよー!」
慌ただしく扉を叩く若い男の声で、軋んだ音を立てて門が開いた。
僕がずっと怒鳴っても殴っても、びくともしなかった扉が開いた――!
頭で考えるよりも先に、体が勝手に駆け出していた。
だけど扉の手前で再びディマーズに取り押さえられてしまう。
相手を罵倒しようにも、僕の喉はとっくに潰れていて何も声が出ない。
「しつこいな、まだいたのかお前は。いい加減どっか行ってくれって。
そんでうまい飯食ってベッドでたっぷり寝てくれ。ここの通りは宿屋じゃないんだぞ。勘弁してくれよ。
……で? お前の方はいったい何の用だよ」
僕を羽交い絞めにしたまま、ディマーズの門番が男の人を問いただす。
イラついた声を出すディマーズの門番の圧力に負け、若い男の人はわずかにたじろいだ表情を見せる。
「あ、えーっと、仲間が……セリさんとレミケイドさんに似た人を見たって聞いたんで……。
二人とも戻って来たのかなー……なーんて思って」
僕は思わず顔を上げた。
この人……今……セリちゃんって言った……? もしかして、セリちゃんの知ってる人?




