piece.22-10
セリちゃんが……望んでいない……?
僕といるのを……?
「君はもう、自分ひとりの力で生きていける。
ディマーズと関われば君の危険が増える。君の人生を、自分が死ぬまで縛りつけたくない。これでどうか幸せに暮らしてほしいと……そう伝えるように言われた」
レミケイドさんが僕に重たい袋を手渡してきた。
袋の中にあるものの音で、中身がお金だということに気づいた。
嫌な予感がする。
「……なに……? なにさ、このお金は……」
「彼女に懸けられていた懸賞金だ。全て君のものだ」
僕はそのお金の袋を地面に投げ捨てた。
「ふざけるな! こんなの……欲しいわけじゃない! 馬鹿にするな!」
これじゃ、僕がまるでセリちゃんのことをディマーズに売り飛ばしたみたいじゃないか!
「この街は物価が高い。もらっておいて損はない。ここを離れるにしても……」
「馬鹿にするな! 僕はセリちゃんを売ったんじゃない! 僕はお金が欲しくてここに来たんじゃない! こんな金なんかいるか! 僕も中に入れろ!」
「それはできない。彼女の意思だ」
レミケイドさんが首を振ると、門番が僕をつかんで門の外へ引きずり出そうとする。
「ふざけんな! 離せ!」
一度は隙をついて振りほどいたけれど、すぐに力づくで取り押さえられ、門の外へと放り出された。
門番が僕の前に硬貨を投げてよこす。
「それで一泊して頭冷やして考え直してこい。残りの金は保管しておいてやる。
そんな頭に血が上った状態で大金持ってふらふらしてたら、すぐに有り金持ってかれるぞ。
お前に何かあればブラッドバスが泣く。命も金も粗末にするな」
僕は地面に落ちた硬貨を拾って目の前の男に投げつけた。
「ブラッドバスって言うなっ!」
思い切り顔めがけて投げつけた硬貨を、ディマーズの男は難なく手でつかんでみせた。
そして僕に近づき、今度は無理矢理僕の手に握らせた。
「お前が生きてることが、中にいるあの人の支えになる。頭を冷やせ」
……なんだよ。
なんだよ偉そうに。
なんで、さも当然みたいにお前がセリちゃんの仲間面してるんだよ……!
僕のほうが……僕のほうがずっとセリちゃんと一緒にいたはずなのに……!
お前にセリちゃんの何が分かるんだよ。
セリちゃんのことをブラッドバスなんて呼ぶような奴ら、セリちゃんの仲間でもなんでもないのに……!
なのになんで……!
なんで僕がこんなところで足止めされなきゃなんないんだよ……!
「うるさい! セリちゃんを返せ! お前らなんかにセリちゃんを任せられるか! セリちゃんを返せ!」
ディマーズの男はため息をついて僕から離れた。
「その言葉、そっくりそのまま返してやるよ」
固く門が閉ざされる。
分厚い石の壁と、頑丈な扉が僕の前に立ちはだかる。
「……開けろよ……。
……ふざけんなっ! ここを開けろよ! さっさと開けろよ!
くそっ! 開けろ――――――っ!!」
僕は何度も何度も扉を叩いた。
分厚い扉はびくともしない。
僕は叫んだ。
喉が潰れるくらいに。
喉から血が出るくらいに。
ずっとセリちゃんの名前を呼んだ。
お願いだから出てきてと、何度も叫んだ。
扉は開くことはなかった。
僕がどんなに叫んでも、どんなに名前を呼んでも――。
誰も――。
誰も僕の声に答えてくれる人はいなかった。
第22章 揺動の黒
<YODO no KURO>
~affection~ END




