piece.22-9
「カイン……。ずっと一緒にいてくれてありがとう。
カインのお陰で私、ここに戻って来ることができた……。カインのお陰だよ、ありがとう」
セリちゃんが僕のことを、さらに力いっぱいぎゅーって抱きしめる。
初めてセリちゃんに抱きしめられた時のことを思い出した。
あの時はまだ僕の背は、セリちゃんの肩にも届かなかった。
今はもう僕の方が背が高い。
いろんな思い出が頭の中を駆け巡って、なんだか泣きそうになってしまった。
間に合って良かった。
これでセリちゃんは元気になれる。
もう血を吐いたり、咳で眠れなくなったりしない。
僕はもう、セリちゃんがいなくなった世界に怯えなくてもいいんだ。
「や、やだなあセリちゃん。お礼なんていいよ。
それよりも早く休んで元気になって。
僕、少しでも役に立てるように、ここでの仕事とかもがんばって覚えるからさ」
セリちゃんが僕から離れる。そして静かに首を横に振った。
セリちゃんの笑顔に違和感を感じた。
なんでだろう。
笑っているのに、笑ってないみたいな……。
「ごめんレミケイド。あとお願い」
「本当にいいのか」
レミケイドさんの問いかけに、セリちゃんはうなづき、背を向けて建物の中へと入っていく。
追いかけようとした僕のことをレミケイドさんがつかんだ。
「君は入れない」
意味が分からなかった。
「え? 僕もセリちゃんと一緒に……」
「彼女は生きてここから出られる保証がない。
君を巻き込みたくない。それが彼女の気持ちだ」
なに言ってんの……? 意味がわかんない。
生きて……出られない……?
なんだよそれ……そんな話……僕はいっさい聞いてない……。
「……ちょっと待ってよ。だって、レミケイドさん言ってただろ! 僕といれば……っ! 僕がいればセリちゃんの毒が抑えられるって! 僕が一緒にいれば……!」
「抑制だけでは意味がない。
彼女の毒はすでに覚醒している。完全に解毒できなければ、もう外には出せない」
「だから完全に毒が消えるまで一緒にいるって言ってるんだ! ちゃんと働くから! 迷惑はかけないから! だから僕を……!」
「彼女は手遅れだ。諦めてくれ」
その言葉に頭が真っ白になる。
「手遅れ? 手遅れってなんだよ……。
……助けるって言ってただろ!? 騙したのか!? 助けたいって言ったのは嘘だったのかっ!」
僕はレミケイドさんに詰め寄った。
「何も嘘は伝えていない。
彼女は過治療の末期症状でこのままでは死ぬ。死なせないために毒から完全に隔離できる場所が必要だと伝えたはずだ」
「そんなの! 元気になってからゆっくり毒を消していけばいいだろ! ディマーズはそれが仕事なんだろ!」
「完全に毒が覚醒した人間に解毒が成功した事例は……未だかつて記録にない」
……なんだよそれ……。
じゃあ、セリちゃんはもう最初から手遅れだったってこと……? 僕と出会ったときからもう……。
「嘘だ! じゃああんたはどうなんだ! 自分だって毒持ちだって言ったくせに! 自分は好き勝手に出歩いてるじゃないか!」
「……俺は覚醒寸前で救ってもらえた。
それでもまだ毒と闘う日々だ。覚醒した毒と闘い続ける日々は、俺では想像することができないほどの壮絶な苦しみだと思う。
彼女はきっと、ここで生きるのが最良だ。誰かを傷つけることもない」
「なら! なら僕もずっとセリちゃんの傍にいるよ! 僕もずっとここで……!」
「彼女がそれを望んでいない」
その言葉に、頭を殴られたような衝撃を受けた。




