piece.22-6
リリーパスの街はすごくきれいで、大きくて、……すごかった。
すごすぎてすごいとしか言えない。
「なんか……すごいね」
それしか感想が出てこない。
マイカもすごく大きな街だったけど、リリーパスはそれ以上に立派だった。
レミケイドさんはリリーパスが半壊したなんて言ってたけど、そんな面影はどこにもない。
たしかにレンガや石畳が新しくてきれいだから、もちろん復興したばかりなんだろうけど。
レミケイドさんもセリちゃんも、僕と同じように珍しそうに周りを見渡している。二人の知っているリリーパスの街とも、だいぶ様変わりしてしまっているらしい。
「……あれ? あのモクモクしてるのは何?」
僕が白い煙のようなものを指差すと、セリちゃんもレミケイドさんも正体が分からなかったらしく、みんなでそのモクモクしてる場所に向かってみた。
街の中で噴水が湧き、大人の膝上くらいの高さに水が貯められた広い場所があった。
その水は真っ白な切石が敷き詰められた中に貯められていて、その中では子供たちが腰巻だけの状態で水浴びをしている。
大人はというと、切石に腰を下ろして足だけを水につけたまま談笑していた。
その水から湯気が出ていた。
「公衆……浴場か。かなり浅いが……」
レミケイドさんがつぶやいた。
セリちゃんがその水に手をつける。
「あ、すごい。ちょうどいい湯加減」
セリちゃんが僕を手招きして呼ぶので、僕も真似をして手をつけてみた。
……本当にあったかい。
この石の下で誰かが水を沸かしてるってこと? こんなにたくさんの水を? 信じられない。
「ああ、あのとき地下から吹き上げたのは温泉だったのか。予期せぬ恩恵だな……」
レミケイドさんが何かを思い出したらしい。
セリちゃんの保護者の人が地面を叩き割ったときのってことかな?
地面からあったかい水がどんどん出てきてるってこと? 水って冷たくない水もあるんだ……。そしたらわざわざ火を起こして沸かさなくていいから楽だなあ。
シロさんが知ったらすごく喜びそう。あの人、お風呂好きだし。
セリちゃんが難しい顔をしながらレミケイドさんに問いかけた。
「……街を半壊させた弁償は、この温泉で帳消しになったって考えるのは楽観的?」
答えるレミケイドさんも難しい顔だ。
「十分に考えられる線だな。でなければエヌセッズとディマーズの間で全面戦争だ。特に揉めてないところをみると、おそらくその筋で話がついているのだろう」
セリちゃんとレミケイドさんが僕には分からないような難しい話をしている。
温泉の中央にある噴水の吹出口にはたくましい男の人の石像が立っていた。立ち姿がすごく強そうでかっこいい。
まさに僕の理想像だった。僕もああいう男になりたい。
僕はセリちゃんの肩をつついて、石像を見てもらった。
「ねえねえ、あれ見て。あそこにあるあの……」
「目が腐る。あんなの見ちゃいけません」
セリちゃんが目にも止まらぬ速さで僕の目を塞いだ。
え? なんで? ひどい! 僕の理想の体がすぐそこにあるんだよ! 見てよ!
「ちょっとセ……っ」
セリちゃんの手が、今度は僕の目から口に移動した。
「はいはーい、私の名前はトーキねー。
悪いけどギルドの建物に入るまでは目立ちたくないから静かにしててねー。
噴水の気持ち悪い石像は見ると呪われる危険な像だから見たらいけませーん」
にこにこしてるけど、とてつもない迫力を感じて僕は黙って首を上下に振った。
どうしたんだろう。
セリちゃんが怖かった。まるで満面の笑みを浮かべたシロさんを見たときみたいに怖かった。
僕は久しぶりに思った。
やっぱりセリちゃんとシロさんって、なんか似てる……。




