piece.22-1
鳥の鳴き声。焚き火の薪がはぜる音。
風は感じないし、まぶた越しに感じる世界はまだ暗い。
毛皮をたぐり寄せようとして、いつもとは違う薄い手応えに、薄く目を開いた。
……あ、そうだった。
毛皮はセリちゃんに貸してあげたんだった。
薄手の毛布にもう一度くるまり直して実感する。
馬車で野宿すると、底冷えしないし、風もしのげるし、すごく体が楽だ。
革でできた幌だから、きっと雨が降っても平気なんだろうな。
本当に快適だ。
レキサさんが用意してくれたクッションの存在もだいぶ大きい。野宿先で柔らかい枕にありつけるなんて初めてだ。
なんだか宿屋と一緒に移動してるみたい。
外では、煮炊きの音が聴こえる。
レミケイドさんが朝ごはんの支度をしてるらしい。
幌から差し込んでくる光は、もう夜明けの色だ。
……僕も手伝わなくっちゃ。
伸びをして体を軽くほぐし、ついでに隣で寝ているセリちゃんの寝顔をのぞきこんだ。
うん、よく寝てるみたい。
……。
…………あ。
やばい。
……どうしよう。
なんか……なんかセリちゃんに、チューしたい。
いやいやいや、ダメだって。
ダメだよ、カイン。寝てる隙にこっそりチューなんて。
勝手に相手の許可なくやっていいことじゃないって。
……いや、待てよ。
そういえばセリちゃん、前に出かけたまんま帰って来なくなっちゃったときに、僕のおでこにチューしていったよね。
うん、したした。思い出した。
いってきますのチューしていった。
あれは僕になんの許可もなくしてたし、あれはきっとセリちゃんにとっては挨拶のひとつってことなんだよね。
うん、きっとそう。そうに決まってる。
……と、いうことは。
つまり。
つまりそれは僕が同じことをしてもいいってことになるわけだよね。
そう。つまりはそういうことだ。
チューは挨拶。
そして僕はまだおかえりのチューをセリちゃんにしていない。
挨拶というものは、されたら返す、それが当たり前のことだし、されたまま返さないというのはお行儀の良くないことである。
そう習った。誰に? 誰かにだ。誰でもいい。そんなことは今はどうでもいいことだ。
僕はお行儀の良い人でありたい。
だから僕は今すぐセリちゃんにおかえりのチューをした方がいいのである。
誰がなんと言おうとそうなのである。




