piece.21-14
えーと、えーと、なにか思い出せ! せっかくエピーが意地悪しないで答えてくれるって言ってるのに!
一生懸命思い出した結果、最初に考えていたこととは違うことだったけれど、レキサさんが言っていた言葉を思い出した。
「ねえ、エピーはアルカナって知ってる?」
『ああ、それね。
セリのことを治せるかもしれない万能薬のことでしょ? セリがディマーズに入ったばかりの座学でもちょっと出てきたって言ってたよ』
万能薬……?
『もしそれがあれば、どんな人間の毒でも完全に消すことができるかもしれないって言ってたけど。
手に入れるのは不可能っぽいみたいな話だったよ。
どっちかっていうと人間の作り出した迷信って説が強いみたい。どんな病もたちどころに治すとか、不老不死になるとか……。そんなことできるわけないのにね』
不可能……。できるわけない……。
「じゃあ、アルカナなんてものは……存在しないってこと?」
じゃあアルカナの謎が解けたって言ってたのはどういうこと?
そんなものはなかったって……そういう話……?
『あ、でもね、アタシからしたらね、カインがセリのアルカナだと思うよ!
セリね、カインと出会ってから自分で自分の毒の治療する回数がぐーんと減ってたから。
それまでなんか、2日に1回は自分に治療して具合い悪くなってたんだよ! 多いときなんか1日で3回! やりすぎて動けなくなってたこともあったし!
ちなみにセリはね、ディマーズで【最も治療されたくないメンバーは誰だコンテスト】で第一位に輝いたこともあるくらい、すごく治療が下手だからね!』
「そんなコンテストやってるの?」
ディマーズの印象がどんどん変わってきた。
『歴代1位のアダリーを抜く快挙だったみたい』
「それ、快挙って言うの?」
『あはは。どうだろうね。
だから……カインがいてくれたら、セリはきっと大丈夫だと思う。
リリーパスに着いたら、セリはちゃんと元気になるよ。絶対に……』
「……ありがとうエピー。
エピーにそう言ってもらえたら、なんか安心した」
『いやん。アタシ、お礼なんか言われるの初めてかも。恥ずかし!』
照れてしまったのかエピーはその後、何度話かけても返事をしてくれなかった。
辺りに再び静寂が訪れる。
僕は夜空を見上げた。
今夜は雲が多くて、月も星も見えない。
そこには真っ暗な闇が広がるだけだった。
――アルカナ、か……。
エピーに言われた言葉を思い出す。
本当に僕がセリちゃんのアルカナになれたらいいのに。
セリちゃんの毒が消せる、運命の王子様になれたらいいのに。
ため息がもれた。
胸がざわざわして苦しい。
なんで僕には何も特別な力がないんだろう。
僕は……やっぱりどんなにあがいても、ただのゴミなのかな……?
悔しくて、涙がこぼれてきた。
第21章 諒恕の黒
<RYOJO no KURO>
~commutation~ END




