piece.21-12
セリちゃんは真剣な顔つきで、僕が手に持っている棒を眺めた。
「ううん、たしかにこれは兄さまのお仕置き棒だよ。
私、昔お説教されてるときに、あんまり兄さまの話が長くてウトウトしてたら『寝んな』って太腿をブスッて刺されたもん。
ほらこれ、『ここまで刺さりました。おめでとう記念』の印。間違いないって」
セリちゃんが指をさしているのは、前にシロさんがこれ以上深く刺すとダメって言ってた目印の線だ。
「え? だってこの線はがんき……っ!」
「ん? ガンキ?」
「ううん! なんでもない!
へ……へぇぇ……。危ないなー、もーシロさんってばー、こんなの人に刺したら痛いのにー、もー」
これ以上想像したくないので眼球のことは忘れよう。セリちゃんの眼球はちゃんと二つある。もうそれでいいじゃないか。
僕は必死で怖い記憶を頭の外へ追い出した。
というよりセリちゃん……?
シロさんにお説教されてる最中によく眠くなんかなるよね。さすがに僕は怖くてウトウトはできないなあ。
だってどんな目に遭わされるか分かったもんじゃない。
……実はセリちゃん、シロさんのことそんなに怖がってないとか?
ここに来てシロさんの言ってた『超仲良し』発言の信憑性が高まってきた。
やっぱり二人は仲良しなのかなぁ……?
セリちゃんは棒の先をしげしげと眺めている。
「昔はあんなに鋭かったのに……。歳をとると人は丸くなるって言うけど、金属も年数が経てば丸くなるんだね。なんか感慨深いなあ」
棒の先を指でなぞりながら、セリちゃんが穏やかな笑みを浮かべる。
ねえセリちゃん?
自分を刺した棒のことをそんな穏やかに笑って見てられるもんなの? 嫌じゃないの? 懐かしいの?
これ……刺さったんだよね?
その様子を静かに見つめていたレミケイドさんがセリちゃんへ声をかけた。
「君がそんな穏やかな表情で昔を語るというのも、年月が経ったことの証明なのかもしれないな」
「え? ……あ、そっか。
なんか不思議。カインといると、なんだか自然に思い出してくるの。
無理やりじゃなくて、すごく自然に。
……うん、そう……カイン見てるとね、すごく兄さまのことを思い出すんだよね」
僕はすごく嫌な予感がしてセリちゃんへ尋ねてみた。
「ねえ……それってさ、僕の性格がシロさんと似てきたとか、すごく意地悪になったとか、そういうこと?」
だとしたら最悪だ……!
シロさんに似るなんて……! 僕はあんな人でなしなんか目指した覚えはないぞ!
セリちゃんは僕の顔がおかしかったのか、吹き出して笑い始めた。
「あはは! なにそれ! もう! カインと兄さまは全然似てないよ!
それに、カインのその顔! 真っ青だよ! 今の顔、兄さまに見られたら絶対にお仕置きされちゃうよ! 『お前なんだその面、不服か?』って吊るされちゃうから!」
ああそうだ、シロさんって言ったら逆さ吊りの刑もあったね。
ていうかセリちゃん、『吊るされちゃうから!』なんてそんな楽しそうな顔して笑うような刑じゃないんだからね! 知ってると思うけど。
「セ、セリちゃん! 笑いすぎ! また咳が止まらなくなるよ! 血吐いちゃうから! 笑うのストップ!」
あんまりセリちゃんが大笑いするので、僕はあわててセリちゃんを落ち着かせるのだった。




