piece.21-10
馬車が雨風をしのげる構造だったので、休憩所には立ち寄らずに野宿をすることになった。
でも馬車自体がとても高価な仕様なので、もしかしたら盗賊に襲われる危険があった。
じゃあ休憩所で泊まった方が安心じゃないのかな? って僕は提案したけれど、宿に泊まっていたとしても馬も馬車も盗まれてしまう可能性があるらしい。
宿屋の人が悪い人だった場合は、寝ている間にこっそり隠されてしまうことがあるのだそうだ。
野宿の方が馬車に目が行き届く分、安全だというのがレミケイドさんとセリちゃんの見解だった。
たしかにシロさんと旅をしているときに、ロバリーヌを別のロバにすり替えられたことがあった。
もし馬や馬車を盗られてしまったら、セリちゃんがリリーパスに到着するのがそれだけ遅くなってしまう。
それは絶対にダメだ。
心配になってくる僕を安心させるように、セリちゃんが笑う。
「大丈夫大丈夫。盗賊くらいなら私とレミケイドの二人で50人くらい来ても倒せるもんねー」
しかしレミケイドさんは眉をしかめてセリちゃんを睨んでいる。
「その戦闘で君はまた自分の毒を増加させるのか? これ以上治療すると命取りな状況だというのに? 君は何年ディマーズをやってる。毒持ちに同調し過ぎだ。自分が未熟だという自覚を持て。不用意に毒持ちに近づこうとするな」
「うわ。またお説教だし。
レミケイドだって前、メティさんに怒られてたじゃん」
「過去の話だ。あとボスと呼べ。愛称で呼ぶな。彼女は君の上司だ」
「どうかなー? 私は立派なお尋ね者だし、もうとっくにディマーズ除名されてたりしてー。そしたらもうメティさんは私のボスじゃないよねー」
だんだん僕はセリちゃんとレミケイドさんの掛け合いに慣れてきた。
レミケイドさんは無表情だし口調も冷たいから怖そうに感じるけど、真面目なだけみたいだ。
なんとなくセリちゃんと口喧嘩してるっぽく聞こえるけれど、本当にケンカしてるわけではない。
実はこれはこれで仲良しなのかもしれないと思うようになってきた。
僕は馬車の中から荷物を出すと、二人に声をかけた。
「んーと、とりあえず僕、あっちに縄でも仕掛けてくるね」
セリちゃんとレミケイドさんが口喧嘩をやめて僕を見る。
「あっちの見通しが悪いところに、縄を踏むと鈴が鳴るような仕掛けをしてくるよ。
盗賊でも獣でも、音が鳴れば驚いて、それ以上近づいて来ないかもしれないし」
シロさんみたいにナイフをたくさん持っていれば、ナイフが飛び出す威嚇用の罠も作れるんだけど、僕が持ってるのは手首に仕込んでる小さいナイフだけだ。
シロさんがその仕掛けをした翌日は、高確率で朝ごはん用の獲物が手に入っていた。
刃物をたくさん持ち歩くのはなんとなく嫌だけど、罠用のナイフは何本かあった方が便利なのかもしれない。
こんなことなら、こっそりシロさんの荷物から2、3本拝借しとけばよかったなあ。
バレたらどんな目に遭わされるかちょっと怖いけど……。
「カインったら……なんかもう……っ、すっかり立派な旅人さんになって……っ」
セリちゃんが目をウルウルさせている。
なんかちょっと恥ずかしい……。
「べ、別にこんなの、たいしたことじゃないって!」
僕はセリちゃんから逃げるように縄を持って林の中へ入っていった。
仕掛けをするついでに、食べれるキノコと木の実を見つけたので、ついでに収穫した。
本当は大きなヘビも見つけたから捕まえようと思ったんだけど、よく考えたらセリちゃんも一緒だし、いろいろ考えた結果……やっぱりそのヘビは見逃してあげることにした。
ちょっとね……。
やっぱりヘビはね……。
食べるとすごく元気にはなるんだけど……。
食べたあとが……いろいろと気まずいもんね……。




