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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第21章 諒恕の黒 ~commutation~
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piece.21-8



「どうしたのセリちゃん、なにか……面白かった?」


 僕が尋ねると、セリちゃんはクッションを胸に抱えて楽しそうに笑った。


「豪華な馬車に、たくさんのクッション……選び方がそっくりだなって思って。

 前にね、メティさんが――あ、ディマーズのボスのことなんだけどね――レキサたちに会いたくて馬車を手配してくれたことがあったの。

 そのときもこういう豪華な馬車でね、レキサのお母さんって一体どんなお金持ちなんだろうって私、緊張しっぱなしでさ」


 懐かしそうに語るセリちゃんの笑顔は、とても穏やかだった。


「ねえ、どうしてレキサさんはセリちゃんのこと、セリ姉って呼んでるの?」


 セリちゃんは伏し目がちに微笑んだ。


「私さ……キャラバンがめちゃくちゃになった後、あてもなくさまよってるうちに、行き倒れちゃってね……通りすがりのレキサのお父さんに拾われたんだ。

 その流れでさ、しばらくレキサの家の居候(いそうろう)だったことがあるの。

 その時にね、私のほうが歳上だし……『セリ姉さま』って呼ばせようとして……でも途中でうまく言葉が出なくなっちゃって……言葉に詰まっちゃってたら……なんかそのまま『セリ姉』って呼んでくれるようになったんだよね」


 昔のセリちゃんって、どんな感じだったんだろう。

 今と変わらないのかな。それともどこか違うのかな……。


「その時からセリちゃんはレキサさんのお姉さんなんだ」


 セリちゃんはすごく困ったように笑った。


「お姉さんなんて……そんなにしっかり者じゃないよ、私。

 レキサの方が落ち着いてて、よく助けてもらったもん」


 そのまま目を伏せて微笑むセリちゃんを見ていたら、胸がつんって苦しくなった。


 僕の知らないセリちゃん。

 僕の知らないセリちゃんを知ってるレキサさん。


 どうしたんだろう。

 最近、なんだか変な感じがする。


 気持ちが悪いというか……体がザワザワするというか……。


 疲れてるのかな。僕も具合が悪いのかな。


 でもそんなこと言ってられない。

 セリちゃんはもっと苦しいのに頑張ってるんだから。


「――あ、そうだ。

 ねえカイン、これをね、持っててもらってもいいかな?」


 セリちゃんが手のひらを開いて、さっきレキサさんに渡された物を僕に見せてくれた。


 セリちゃんの手の中にあるのは、小さな紅い石のついたネックレスだった。

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