piece.21-5
レキサさんが馬車の手配をして戻ってきた。
レキサさんの隣にはもう一人ディマーズの男の人がいる。前にも見かけたことのある人だった。
「おっほー、マジだー。死んだ人がいるー。うわーこっえー」
軽口をたたきながら近づいてきたディマーズの男の人に向かって、セリちゃんが目にも止まらぬ速さで首に斧を突きつけた。
「……ゼルヤ。あの手配書描いたのゼルヤでしょ。
なにあれ、ひどい目に遭ったんだけど。しかも全然似てないし」
ゼルヤさんは半笑いで両手を上げて、降参のポーズをしている。
ようやく顔と名前が一致した。この人がゼルヤさん。例のお調子者のゼルヤさん……。
往来の中心で男の人が首に斧を突きつけられているような状況なのに、街の人達は落ち着いている。多少遠巻きに避けていく程度だ。
斧の刃先が革カバーで保護されたままなのと、ゼルヤさん本人が笑顔なのもあって、きっと心配ないだろうと思われているのかもしれない。
街を行き交う人たちは、なんとなく珍しそうに二人を眺めたあと、たいして興味もなさそうに歩いていく。
「それ! その顔! 今の顔がまさにそれ!
やだやだブラっち超怖ーい。ほらほらレキサが怖がっちゃうよ! いいの? お姉ちゃんなんでしょ?」
セリちゃんはレキサさんからきまり悪そうに目をそらすと、斧を腰に下げ直した。
でもまだすっきりはしていないらしく、ぶつぶつと小声で文句を言う。
「命狙われるこっちの身にもなってよ、ひどい目に遭ったんだから」
「はー? なんでだよ、ちゃんと『生け捕りで』って注意書きしてあっただろ? そいつら字が読めなかったんだよ、オレらのせいじゃないって。
ちぇー、なんだよ、こっちはブラっちに結構なお金もかけて、手配書も全域に配って手間かけたのに。甲斐がないよなー」
「賞金が高すぎて『死体でも半額くらい出るだろ』って噂が広まってたの知らなかったの?
もう容赦なさすぎで大変だったんだから。しかも手配書が広まりすぎてて、どこにも逃げ場がないし」
「えー、なにそれ全部裏目じゃん、ウケるー。
でもそれでよく今まで生きてたよな、さすがブラッド・バ――あ、斧出すなよ! レキサが見てるぞ!
……てか、ブラっちって何年くらい逃げてたんだっけ?オレたちディマーズからここまで長期間逃げ回るとかさ、歴代最長記録じゃない? どこに隠れてたわけ?
……あ! 分かった! 地面の中に潜ってたとか?」
「息ができないでしょうが」
セリちゃんに睨まれ、あははと笑うゼルヤさん。お調子者と言われている通り、あんまり怖そうな人じゃない。
レミケイドさんがセリちゃんとゼルヤさんの間に割って入った。
「ゼルヤ。アダリーが先行している。リアルガへ行ってくれ。アスパードの仲間を拘束してある。連行しろ」
ゼルヤさんは露骨に嫌な顔をした。
「えー! 嫌っすよ〜! だってオレ見てないすけど、お二人が繰り広げたやり取り、なんとなく想像できますもーん!
絶対あの人いまキレまくりでしょー? 嫌っすよー、キレ真っ最中のあの人とオレ一人で仕事すんのー。
……あ。そだ。ブラっちも行こ?」
ゼルヤさんが名案を思い付いたとばかりにセリちゃんの手をつかんだ。
――がしかし、セリちゃんは一瞬で手を振りほどく。
「ごめん、私いま死にかけだから」
……セリちゃん。
本当のことなんだけどさ、この流れでそれを言ってもふざけているようにしか聞こえないよ。
そして本当に具合悪いんだから、そういう縁起でもない冗談言うの、ホントやめて。




