piece.21-4
僕は前にロキさんから言われた『レキサさんはエヌセッズがディマーズに送ったスパイ』だという話をしようかどうしようか迷った。
だって隣にはディマーズのレミケイドさんがいる。聞かれたら……絶対に良くない気がする。
もしかしたら僕の発言が、レキサさんに迷惑をかけてしまうことになるかもしれない。
僕はそっとレミケイドさんの様子をうかがう。
レミケイドさんは、レキサさんの後ろ姿を見つめながら静かにつぶやいた。
「ふむ、ボスの息子が来てくれるとは頼もしいな」
「え? ボスの息子!?」
レミケイドさんの言葉に僕は思わず声を上げた。
ボス? ボスってディマーズのボス? その息子って? レキサさんが?
あれ? えーと……レキサさんの……たしかお母さんがディマーズにいるってロキさんが言ってたけど……。
え? ボス? お母さんがボスなの? つまりディマーズの人でボスの人がお母さんの人なのがレキサさんという人なの? あれ? 僕いま結構混乱してる?
あれ? ディマーズのボスさんって……レミケイドさんの話だと、セリちゃんの保護者の人とリリーパスが崩壊するくらいの戦闘を繰り広げちゃったって言ってたあの人のことだよね?
つまりめちゃくちゃやばい人ってことでしょ? 怖くて強くてめちゃくちゃな人ってことでしょ? そんな人がレキサさんのお母さん!?
えー!? レキサさんからは全然想像できないんだけどー!
――あ、そうか! 分かったぞ! つまりレキサさんはお父さん似ってことか!
うん、きっとそうだ。お父さんはエヌセッズの人だって言ってたし、エヌセッズの人ならきっとロキさんみたいに優しくて面倒見が良くて穏やかな人かもしれない。うん、そうに違いない。
きっとレキサさんのお父さんは、レキサさんにそっくりの優しくて穏やかで落ち着いた人なんだ。
よし、ちょっと落ち着いてきたぞ。
僕は混乱する頭で一生懸命、状況を整理した。
混乱している僕に説明してくれたのはセリちゃんだ。
「うん、そう。
レキサはね、ディマーズのボスのメトトレイさんって人の子供なんだ。でも、ディマーズは危ない仕事も多いし、レキサがこっちに来るなんて……なにがあったんだろう……」
「君は人のことより自分の体の心配をしろ」
横からレミケイドさんがあきれたようにため息をつきながら口を挟んだ。
「えー、なに言ってんのレミケイドー。私は全然元気だってばー、もー」
そう言ってセリちゃんは笑うけど、僕は気づいていた。
セリちゃんの熱がさっきよりも高くなっていること。
呼吸がどんどん弱く、浅くなっていること。
セリちゃんは本当はすごく具合が悪いのに、僕たちに気づかれないように、すごく……すごく無理していることに――。




