piece.21-2
街に入るとすぐにレミケイドさんは荷車を売り払った。
荷車と交換で馬車も調達しようとしたけれど、あいにく馬車の手配はもっと街の中心だと言われてしまった。
セリちゃんは剣を杖代わりにしながら歩いていた。
その目はどこかうつろで力がない。たぶん熱のせいだ。
肩を貸そうとしたけれど、「カインは荷物も持ってるし、私は大丈夫だよ」と断られた。
僕と話をしているときのセリちゃんは、具合なんか全然悪くなさそうに見える。
僕が心配しないように気を遣ってくれているって分かる。でも……僕は嬉しくなかった。
僕のことなんかより、自分のことをいたわってほしいのに……。
杖にされている剣のエピーは、普通の剣のように静かにしている。
あんなにおしゃべりなのに、普段はまったくしゃべらない。
僕だって、エピーと一緒にセリちゃんを支えてあげたいのに。
一方でレミケイドさんはセリちゃんのことなんか全く気にしていない様子で、どんどん先に進んでいく。
迷いなくマイカの街の中を進んでいくレミケイドさんを見失わないように目で追っているうちに、僕は思わず足を止めた。
雑踏の中に、見覚えのある黒い制服の女性がいる――。
間違いない、ディマーズの制服だ。
嫌でも緊張してきた。手に汗が滲んでくる。
ディマーズの制服を避けるように人が行き交うせいで、通りには不自然な空間ができていた。
「アダリー」
レミケイドさんが名前を呼んだ。
レミケイドさんの低い声は、人混みの中でもよく通った。
アダリーさんが怖い顔で振り返る。
「ほう、私を呼び捨てとはいい度胸……。
……? ……レミ、ケイド……?」
怖かった顔が――今にも泣き出しそうな顔に変わる。
「レ……レミケイド……! レミケイドっ!」
目を真っ赤にしたアダリーさんがレミケイドさんに向かって駆け出した。
あの怖いアダリーさんからは想像できなかった。
子供みたいに顔をくしゃくしゃにして、涙を流して――。
「レミ……っ」
「悪いが至急リアルガに向かってくれ。
ラスの2名に代行を頼んである。処理済みの毒持ちが46名だ。今日の編成は。他に誰がいる」
ぴたっとアダリーさんが真顔で固まった。
僕の隣でセリちゃんがため息をつきながら「あーもー、そーゆーとこ……」と、ぼやくのが聞こえた。
「……き、貴っ様はぁっ! 今の今まで死んだと謀っておきながらよくも出てきて早々この私に指示が出せるなあ!?」
アダリーさんが自分よりもひと回り背の高いレミケイドさんの胸ぐらにつかみかかった。
もうアダリーさんは泣きそうな顔はこれっぽっちもしていない。
目に涙を溜めてはいるけれど、顔を真っ赤にしながら怒りに震えている。
これは僕が知っている怖いアダリーさんだ。
アダリーさんは僕が知ってる限り、だいたいいつもこんな顔だ。
しかしレミケイドさんは、そんな怖いアダリーさんに胸ぐらをつかまれていても、いつも通りの無表情のままだ。
「死んだと言ったのはボスだろう。苦情はボスに言ってくれ。
それよりアスパードお抱えの毒持ち達だ。連行して尋問する方が先だろう。至急向かってくれ。
で、何人編成だ。報告」
「……こっの……っ! さっそく私に命令するな貴様ぁぁぁぁあっ!
貴様がいない間、私がどれだけ大変な思いをしたと思っとるかああぁぁぁっ!」
キレたアダリーさんが絶叫しているが、レミケイドさんは全く動じてない。
すごい……。
こんなにキレてる怖い女の人に胸ぐらをつかまれていても冷静すぎる……!
僕はレミケイドさんにだんだん尊敬の念を覚え始めていた。




