piece.20-9
急に目が覚めた。
風の音で起きてしまったみたいだ。
すぐそばでセリちゃんの寝息が聞こえる。寝返りを打つと、すぐそこにセリちゃんの寝顔があった。
近くで聞くと分かる。
セリちゃんが息をする度、木枯らしのような乾いた音する。
呼吸も浅い……。
もしかしたら、苦しいのかもしれない。
でも――。
セリちゃんがいる。
セリちゃんが生きてる。
セリちゃんが息をしている。
僕の手がすぐ届くところにセリちゃんがいてくれる。
これは夢じゃないって確認したくて、そっとセリちゃんの髪に触れてみた。
夢じゃない。
頬にそっと触れてみる。
ちゃんと、あったかい。
指に伝わる確かな感触。
セリちゃんがいる――。
ここに、いてくれる――……。
なぜか、急に胸が苦しくなった。
涙まで出そうになる。
どうしてなんだろう。
苦しくて息ができなくなりそうだった。
このままセリちゃんの苦しいのが、全部僕に移ってしまえばいいのに――。
明日の朝には、セリちゃんの具合がすっかり良くなっててほしい。
僕はどうなっても構わないから――。
でもその願いは――――きっと、届かない……。
夜風が冷たい。
窓を閉めた方が良さそうだ。
セリちゃんを起こさないようにそっとベッドから抜け出そうとし――、音もなく部屋のドアが開くのに気づいた。
すぐに手甲の中からナイフを抜いて構える。
だけどすぐに構えを解いた。
入って来たのは、レミケイドさんだったから。
「優秀な護衛だな。心強い」
レミケイドさんに褒めてもらえて、ちょっとだけ嬉しかった。
僕がナイフを手首にしまうと、レミケイドさんが下の階を指さして言った。
「良かったら、少し話がしたい」
僕を食堂に誘ってくれているらしい。
セリちゃんを一人にして大丈夫か迷う僕に、レミケイドさんは静かな声で言った。
セリちゃんを起こさないように、低くささやくように。
「彼女なら大丈夫だ。ひととおり巡回してきたが、危険なのはいない。1杯だけ付き合わないか?」
僕もレミケイドさんと話がしてみたかったので、その申し出にのることにした。
音を立てないようにそっと窓を閉め、セリちゃんに毛布をかけ直してあげると、レミケイドさんと一緒に下の食堂について行った。




