piece.20-8
「どこ行くのかな?」
僕が尋ねるとセリちゃんは、ちょっと考えながら「大人の男の人の大事な用事的な?」と答えた。
つまりそういう女の人のいる、そういうお店だろうか。
シロさんといる時は、しょっちゅうそういうところばっかり僕を連れて行こうとするから参ったけど、シロさんだけじゃなくて、やっぱり男の人はそういう女の人とそういうことをしたくなるもんなのか……。
……そっか。レミケイドさんもそうなのか……。
そんなふうに見えなくても、やっぱりレミケイドさんもそうなのか。男の人ってそういうもんなんだ。
でも僕は、そういう女の人よりも……。
「じゃあねカイン。おやすみ」
セリちゃんに声をかけられて、僕はあわてて考え事を中止した。
「え? あ、うん! そうだよね、明日も早いし、もう寝なきゃだね! うん、おやすみセリちゃん」
「うん、おやすみカイン……」
なんとなく、じーっと僕を見つめるセリちゃんの目がさみしそうに見えた。
あ、そうだった……。
僕は黙って少しだけ寝る場所をずらした。
それから空いた場所を手でぽんぽんっと叩く。
その様子をセリちゃんが不思議そうに見つめている。でもすぐに僕の言いたいことが分かったらしい。
「……いいの?」
上目遣いのセリちゃんが、探るように僕に尋ねてくる。その仕草がなんだかとっても子供っぽくて、かわいかった。
僕は腕を広げてこう伝えた。
「もちろん。さ、セリちゃん、おいで」
セリちゃんの顔がみるみる嬉しそうな顔に輝き出す。
そしてその横をレミケイドさんが通り過ぎていく。
……ん?
レミケイドさんが、通り過ぎていく……?
おそるおそるレミケイドさんが通り過ぎていった方へ視線を移すと、少しだけ居心地悪そうにしているレミケイドさんがいた。
「す、すまない。財布を忘れた。
気配はなるべく消したんだが……邪魔をするつもりは微塵もない。構わず続けてくれ」
――『構わず続けてくれ』じゃないよっ! 構うに決まってるでしょっ!!
「レミケイドさんっ! 気配だけじゃダメ! 姿も消してくれなくちゃっ!
僕、めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないですかっ!
よりによって……っ、よりによってこのタイミングで横を通り過ぎることないじゃないですかっ! わざとですかっ? 嫌がらせですかっ? 僕なにか悪いことしましたかっ?」
「無茶を言わないでくれ。姿を消せるわけないだろう、無理だ。
悪かった。本当に悪かった。わざとじゃない。長めに時間をつぶして帰ってくるからそれで許してくれ」
レミケイドさんが逃げるように部屋から出ていった。
「……カインすごーい。レミケイドがあんなにあせるの見たの、すっごい久しぶりー」
セリちゃんが楽しそうに笑っている。
し、しまった……!
恥ずかしすぎて思わず怒ってしまった。しかも、相手はディマーズのレミケイドさんなのに……!
血の気がどんどん引いていく。
「どうしよう……。僕、レミケイドさんに失礼なことを……っ、どどどどうしよう……!」
「大丈夫だよ、レミケイドが怒ることってほとんどないから。
もしこれくらいでレミケイドが怒ってたら、ゼルヤなんか死んでる回数、10回じゃ済まないからね。
あ、ゼルヤっていうのはね、ディマーズにいる私よりちょっと先輩でね、すっごい調子いいやつでね……」
せっかくセリちゃんがディマーズにいたときの話をいろいろしてくれたのに、僕の頭にはちっとも話は入ってこなかったのであった。




