piece.20-3
前に、セリちゃんが言ってた。
痛いことを痛いと感じることも大切だって。
それって、もしかしたらこういうことなのかな……?
ふいにそんなことが頭に浮かんだ。
「予想以上に君の足が強いので正直驚いている。早いペースで移動はできている。
だから、くれぐれも無理はしないでほしい」
レミケイドさんにそう言ってもらえて、少し安心する。
良かった。
僕のせいで行程が遅れてはいないらしい。
シロさんとの道中は、散々重たい荷物を持たされて、散々歩かされた。
でもおかげで今、必死で歩かなくちゃいけないときに、僕の足は止まらずに歩き続けることができている。
――シロさん……。
今、どこにいるんだろう――……。
なんだか急にシロさんに会いたくなった。
でも今はセリちゃんのことが大事だ。
「……リリーパスまで……間に合いますか?」
セリちゃんの命が――とは、声に出せなかった。
縁起でもないことは口にしたくなかった。
レミケイドさんは、セリちゃんの様子を確認し「寝たな。静かになった」と僕に伝えた。
わずかに目を細めていて、僕にはレミケイドさんが微笑を浮かべたように見えた。
僕も荷車をのぞき込んでみると、セリちゃんは斧を抱きしめるように抱えながら寝息を立てていた。
どうしてだろう。
胸がチクチクする気がする。
「朝も言ったが、昨日に比べると顔色もいい。
君と再会できたのが良かったんだろう。なるべく彼女の傍にいてやってくれ。その方が彼女の毒が抑制される」
レミケイドさんの言葉の意味が分からず、僕は首を傾げた。
「彼女の中に巣食う毒は、幼い子供の気配を嫌う。
君は……幼いという表現は失礼な年頃だとは思うが――だが彼女の毒は、君のことが嫌いなようだ」
「そういうのも、レミケイドさんには分かるんですか?」
だとしたらすごい。
もしかしたらレミケイドさんはディマーズの中でも、特別すごい人なのかもしれない。
「彼女の表情を見ていれば、なんとなく分かる。
それに、彼女が昔の話をするのを聞いたのは初めてだ。
ディマーズにいた頃は一切口にしなかった。君に気を許しているのだと思う。
……兄というのは、あのときの彼か?」
僕は静かにうなづいた。
セリちゃんやシロさんのいたキャラバンのこと――。
きっと、それは軽々しく人に教えてはいけない話なんだと思う。
セリちゃんやシロさんの様子から、それはなんとなく理解できていた。
話しても大丈夫そうなことだけを選んでレミケイドさんに伝える。
「本当のお兄さんじゃないみたいですけど……。
昔、セリちゃんのお世話をしていた人みたいです」
お世話というか、逆さで吊るして蹴ったとか、酔っぱらわせて崖から飛び降りさせたとか、……ひどい話ばっかりだけど。
「彼は、相当な腕だな」
僕は思わず口をついて出そうになる言葉を飲み込んだ。
――そうだよ。シロさんは強いんだ。本当にすごく強い人なんだ。
そんな言葉が口から出そうになった。
なんで急にこんなことを言いたくなったのか、自分でもよく分からなかった。
それに、レミケイドさんにシロさんはあっさり負けてしまった。
あの時のシロさんを思い出すと、また重たい気分になってしまう。
「でも……、レミケイドさんの方が強い……みたいですけど」
「いや、あれは条件が良かっただけだ。まともにやれば負けるのは俺だろう」
そんなレミケイドさんの言葉を聞いて、なんだか僕は不思議な気持ちになった。
なんだろう、この気持ち……。
考えようとすれば考えようとするほど、この不可解な感情の正体が分からなくなっていった。




