表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第20章 慚愧の黒 ~compunction~
208/394

piece.20-3



 前に、セリちゃんが言ってた。


 痛いことを痛いと感じることも大切だって。


 それって、もしかしたらこういうことなのかな……?


 ふいにそんなことが頭に浮かんだ。


「予想以上に君の足が強いので正直驚いている。早いペースで移動はできている。

 だから、くれぐれも無理はしないでほしい」


 レミケイドさんにそう言ってもらえて、少し安心する。


 良かった。

 僕のせいで行程が遅れてはいないらしい。


 シロさんとの道中は、散々重たい荷物を持たされて、散々歩かされた。


 でもおかげで今、必死で歩かなくちゃいけないときに、僕の足は止まらずに歩き続けることができている。


 ――シロさん……。

 今、どこにいるんだろう――……。


 なんだか急にシロさんに会いたくなった。

 でも今はセリちゃんのことが大事だ。


「……リリーパスまで……間に合いますか?」


 セリちゃんの命が――とは、声に出せなかった。

 縁起でもないことは口にしたくなかった。


 レミケイドさんは、セリちゃんの様子を確認し「寝たな。静かになった」と僕に伝えた。


 わずかに目を細めていて、僕にはレミケイドさんが微笑を浮かべたように見えた。


 僕も荷車をのぞき込んでみると、セリちゃんは斧を抱きしめるように抱えながら寝息を立てていた。


 どうしてだろう。

 胸がチクチクする気がする。


「朝も言ったが、昨日に比べると顔色もいい。

 君と再会できたのが良かったんだろう。なるべく彼女の傍にいてやってくれ。その方が彼女の毒が抑制される」


 レミケイドさんの言葉の意味が分からず、僕は首を(かし)げた。


「彼女の中に巣食う毒は、幼い子供の気配を嫌う。

 君は……幼いという表現は失礼な年頃だとは思うが――だが彼女の毒は、君のことが嫌いなようだ」

 

「そういうのも、レミケイドさんには分かるんですか?」


 だとしたらすごい。

 もしかしたらレミケイドさんはディマーズの中でも、特別すごい人なのかもしれない。

 

「彼女の表情を見ていれば、なんとなく分かる。

 それに、彼女が昔の話をするのを聞いたのは初めてだ。

 ディマーズにいた頃は一切口にしなかった。君に気を許しているのだと思う。

 ……兄というのは、あのときの彼か?」


 僕は静かにうなづいた。


 セリちゃんやシロさんのいたキャラバンのこと――。


 きっと、それは軽々しく人に教えてはいけない話なんだと思う。


 セリちゃんやシロさんの様子から、それはなんとなく理解できていた。


 話しても大丈夫そうなことだけを選んでレミケイドさんに伝える。


「本当のお兄さんじゃないみたいですけど……。

 昔、セリちゃんのお世話をしていた人みたいです」


 お世話というか、逆さで吊るして蹴ったとか、酔っぱらわせて崖から飛び降りさせたとか、……ひどい話ばっかりだけど。


「彼は、相当な腕だな」


 僕は思わず口をついて出そうになる言葉を飲み込んだ。


 ――そうだよ。シロさんは強いんだ。本当にすごく強い人なんだ。


 そんな言葉が口から出そうになった。


 なんで急にこんなことを言いたくなったのか、自分でもよく分からなかった。

 それに、レミケイドさんにシロさんはあっさり負けてしまった。


 あの時のシロさんを思い出すと、また重たい気分になってしまう。


「でも……、レミケイドさんの方が強い……みたいですけど」


「いや、あれは条件が良かっただけだ。まともにやれば負けるのは俺だろう」


 そんなレミケイドさんの言葉を聞いて、なんだか僕は不思議な気持ちになった。


 なんだろう、この気持ち……。


 考えようとすれば考えようとするほど、この不可解な感情の正体が分からなくなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ