piece.19-10
セリちゃんは、困ったような顔をして僕を見上げた。
「だって、カイン寝てたし、起こすの悪いかなって……」
起こしてよ! 僕だって……僕だって……!
セリちゃんとくっついて、念願のスリスリをしながらぴったりくっついて、あったかいね♡ あはは〜♡ とか! 幸せだね♡ うふふ〜♡ とか! そういう気持ちに浸りたかったのに!
「そんなこと気にしなくていいから! 次はちゃんと起こして!
今度こっそりもぐりこみに来たら怒るからね!」
ちょっと僕の言い方がきつかったのかもしれない。
セリちゃんが傷ついたような顔をした。
「ごめん……そうだよね。
……好きでもない女の人がベッドの中に勝手に入ってきたら、嫌に決まってるよね、ごめん……」
ちょっと待ってよセリちゃん! どうしてそういう考えになっちゃうの!?
僕はいつだってどこだってセリちゃんなら大歓迎だよ!! むしろ毎晩だってバッチ来いだよ!
そんなことよりこれからは毎晩一緒に寝るって約束を今ここで決めてしまおうよ! うんそれがいい! そうしよう!
「違うよセリちゃん! 誤解してるよ! 僕の話を聞いて!」
「ううん、私が悪いの。ごめんねカイン。
もう、こういうことはしないから……。本当にごめん」
「違うんだって! だめ! それはだめ!
つまり僕が言いたいのは! 寝てるときにセリちゃんがくっついてきても、僕としては全然嬉しくなくて……! だから僕がちゃんと起きてるときにくっついてきてくれないと……!」
「うん、ごめんカイン。嬉しくないもんね。ごめんね」
「だーかーらー! 僕の話、ちゃんと聞いてる!?」
「朝からうるさい」
レミケイドさんが部屋に入ってきた。
レミケイドさんに注意されてしまい、思わず僕の背筋が伸びる。
「昨日より顔色がマシになったようだ」
レミケイドさんは全然心配しているようには見えない無表情で、セリちゃんのことを見つめた。僕のことは完全無視だ。
セリちゃんが笑みを深めた。
レミケイドさんの言う通り、昨日より目に力がある。
「うん。久しぶりにちゃんと眠れた気がする」
……なんていうか。ここまで気持ちよく無視されると、騒いでた僕ひとりがなんだかとっても恥ずかしくなってくる。
「カインと一緒に寝れた効果かも」
セリちゃんがいたずらっぽく笑うと、ようやくレミケイドさんが僕の方を向いてくれた。
ただし、すごく冷たい無表情で。
「そうか。明日の朝からはいちいち騒がないようにしてくれ。
毎朝痴話喧嘩につきあわされるのは非常に迷惑だ」
……こっわ。
なにこの怖さ。
シロさんともアスパードとも違うタイプの怖さだ。
僕が口をパクパクして、返事に困っていると、セリちゃんが笑った。
「レミケイド、機嫌いいね。自由行動、楽しい?」
――え? これでこの人、機嫌がいいの!? ウソでしょ?
セリちゃんの言ってる意味が、僕には全然分からなかった。
「違う。これからリリーパスに戻って通常業務が待っていると思うと気が滅入るだけだ」
「ほら、やっぱり今楽しいんじゃん」
僕には、どう考えても二人の会話が噛み合っているようには思えなかった。




