piece.19-9
・・・・・
ここはどこだろう。
木漏れ日が差し込む森の中――。にぎやかな人の声がする。
セリちゃんが笑ってた。
(あ! セリちゃーん!)
僕の呼ぶ声は、セリちゃんには届かなかったらしい。
長くてきれいな髪を風になびかせたセリちゃんは、子供たちに囲まれて、楽しそうに笑っていた。
(もう、セリちゃん! セリちゃんってばー!)
セリちゃんは楽しそうに笑っている。
なかなか僕に気づいてくれない。
なんだかちょっとだけ、さみしい気持ちになってくる。
(ねえセリちゃん! セリちゃーん!
おーい! セリちゃんってばー!)
ようやくセリちゃんが僕に気づいてくれた。
でも振り返ったセリちゃんは、僕を見たとたん、泣きそうな顔になった。
「なんで……? どうして……?」
セリちゃんの声がふるえている。
セリちゃんの顔がどんどん憎しみに歪んでいく。
(待ってよセリちゃん。どうして僕のことをそんな目で見るの……?)
思わず一歩後ろに下がると、水の音がした。
足元は水浸しだった。
真っ黒な――とても真っ黒な水であふれている。
僕の周りには子供たちが倒れている。
さっきまでセリちゃんと遊んでた子供たちだ。
みんな、死んでる……。誰が、こんなひどいことを……?
僕の手には、真っ黒に濡れた長い剣が握られている――。
(……違う! 僕じゃない……! 僕がやったんじゃない! 信じてセリちゃん!)
でも僕の口は勝手に言葉を話し始めた。
「セリちゃんが悪いんだよ。
僕のことより、そんな子供たちとばっかり楽しそうにするから……。
僕とだけ一緒にいてよ。僕以外と楽しそうにしないでよ」
セリちゃんの目から、涙がどんどんこぼれていく。
(――違う! 僕じゃない! 信じてセリちゃん! 僕はやってない!)
「……るさない……っ、許さない……! 許さないっ!」
セリちゃんが剣を抜いて僕に向かってくる。
今まで見たことないくらいに、怖い顔をしたセリちゃんが――。
違う! セリちゃん! 僕じゃない!
僕は絶対にそんなことしない!
お願い! 信じて――!
僕は絶対に――……!
・・・・・
「うわぁぁあ!」
自分の悲鳴で目を覚まし、自分の手に当たった柔らかい感触にもう一度驚いた。
「……ん? カインどうしたの? 怖い夢でも見た?」
セリちゃんが僕のベッドで一緒に寝ていた。
僕にくっつくみたいに寄り添って。
「えっ? え……? え……えぇっ?
ちょっとセリちゃん! なんでこっちで寝てるの?」
「なんか寝れなくて……カインとくっついてたら寝れるかなあって」
そう言いながら、半分寝ぼけたセリちゃんは僕にすりすりと体を寄せてくる。
……ちょっと待ってよ。なにそれ。なにこの状況。
あ! 分かった! 夢だ!
自分の顔をつねってみたけど夢から醒める気配はない。
うそっ! 夢じゃないの!?
うわぁぁぁあ、全然気づかなかった! もったいない! もったいなさ過ぎるっ! ちゃんと気配に気づけ僕のバカ!
こんな状況になってるんなら――……!
絶対に眠ったりなんかしなかったのに――――っ!
「もう! 先に言ってよ! セリちゃん!」
セリちゃんが隣に来た気配、全然気づかなかったよ! 気配消し過ぎだよ!
もう! もったいない! 起きてたら僕だってセリちゃんにぴったりくっついて幸せな気持ちで眠れたかもしれないのに!
そしたら怖い夢だって見なかったかもしれないのに!
……あれ? 怖い夢って、どんな夢だったっけ?
なんか……セリちゃんを怒らせてしまったような……そんな夢だった気がするけど……。
思い出そうとしても、まるで手にすくった水がこぼれていくみたいに、さっき見た夢はどんどん僕の頭の中から消えていってしまう。
ま、いいか。
怖い夢なんて忘れたほうがいいに決まってる。




