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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第19章 再起の黒 〜derivation〜
201/395

piece.19-8



 厚い雲に煙がのまれていくのを、二人で見上げた。


「私が、私の中の毒を制御できるようになったら……。団長の影が、もう私に語りかけてこなくなったら。

 その時はもう一度、何か別の願いをかけて、髪を伸ばしてみようかなって思ってるんだ。

 でも……今はまだ、髪を伸ばすのは怖いな……」


「そっか……」


「ねえカイン、手を握っててもらってもいい? 髪が全部燃えるまで……」


 僕はうなづいてセリちゃんの手を握った。


 するとセリちゃんは、よし! と意を決したようにその辺の枝をつかむと、火の中に枝を突っ込んでかき回した。火が少し強くなる。


 セリちゃんが、煙のにおいに顔をしかめながら僕に言った。


「それにしても髪の毛って、燃やすとすっごく嫌な(にお)いがするね。

 (ドラゴン)の火だったら(にお)いも出ないし、あっという間に燃えちゃうんだけど。

 やっぱり人間の使う火って、すごく弱いんだなあ」


 ……ドラゴン? なんでいきなりドラゴン?


「……あ、そっか。セリちゃん、ドラゴンと友達なんだっけ? ノームのおじいちゃんから聞いたよ」


「友達かあ、どうかなあ。

 仲良くさせてはもらってるけど、(ドラゴン)のみんなは気位(きぐらい)が高いからなあ。人間ごときと友達なんて言ったら怒られちゃうかも」


「セリちゃんって、ドラゴンとはどこで知り合ったの?」


 そこで少しだけ間があった。


「……そうですねえ、これは……私が体験した話なんですけどねえ……。

 ある晩のこと、深夜に誰かが部屋の扉をノックしたんです。

 コンコン、コンコンっとやけに音が響きましてね。こんな遅い時間に変だなあ、おかしいなあ、と思ってドアを開けるとですねえ……」


「セリちゃん!? なんで怖い話になるの? やめてよ! 怖いって!」


「そんなこと言われても、本当にあった怖い話なんですねえ」


「……友達になった話じゃないの?」


「ああー、違うんですねえ。焼き殺されそうになった話なんですねえ」


「全然友達じゃないよ、それ! それよりそのしゃべり方怖いからやめて!」


 セリちゃんは楽しそうにクスクス笑った。


「なんか久しぶりに笑ったかも。やっぱりカインといると楽しい。

 ……良かった。またカインに会えて。本当に、カインが無事で良かった……」


 僕だって。


 僕だってセリちゃんと一緒にいると、すごく楽しいよ。

 だから、ずっとずっと、僕はセリちゃんと一緒にいたいんだ。


 僕にだって、セリちゃんが無事で良かったって思わせてよ。

 セリちゃんが死ななくて良かった、助かって良かったって、早く思わせてよ。



 セリちゃんが楽しそうに笑うから、僕は一緒になって笑ってあげた。


 でも本当は、不安でしょうがなかった。


 セリちゃんがいなくなった世界は、想像するだけで身震いしてしまうほどに――。


 僕にとって、真っ暗で冷たい、恐ろしい世界だったから。

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