piece.19-8
厚い雲に煙がのまれていくのを、二人で見上げた。
「私が、私の中の毒を制御できるようになったら……。団長の影が、もう私に語りかけてこなくなったら。
その時はもう一度、何か別の願いをかけて、髪を伸ばしてみようかなって思ってるんだ。
でも……今はまだ、髪を伸ばすのは怖いな……」
「そっか……」
「ねえカイン、手を握っててもらってもいい? 髪が全部燃えるまで……」
僕はうなづいてセリちゃんの手を握った。
するとセリちゃんは、よし! と意を決したようにその辺の枝をつかむと、火の中に枝を突っ込んでかき回した。火が少し強くなる。
セリちゃんが、煙のにおいに顔をしかめながら僕に言った。
「それにしても髪の毛って、燃やすとすっごく嫌な臭いがするね。
竜の火だったら臭いも出ないし、あっという間に燃えちゃうんだけど。
やっぱり人間の使う火って、すごく弱いんだなあ」
……ドラゴン? なんでいきなりドラゴン?
「……あ、そっか。セリちゃん、ドラゴンと友達なんだっけ? ノームのおじいちゃんから聞いたよ」
「友達かあ、どうかなあ。
仲良くさせてはもらってるけど、竜のみんなは気位が高いからなあ。人間ごときと友達なんて言ったら怒られちゃうかも」
「セリちゃんって、ドラゴンとはどこで知り合ったの?」
そこで少しだけ間があった。
「……そうですねえ、これは……私が体験した話なんですけどねえ……。
ある晩のこと、深夜に誰かが部屋の扉をノックしたんです。
コンコン、コンコンっとやけに音が響きましてね。こんな遅い時間に変だなあ、おかしいなあ、と思ってドアを開けるとですねえ……」
「セリちゃん!? なんで怖い話になるの? やめてよ! 怖いって!」
「そんなこと言われても、本当にあった怖い話なんですねえ」
「……友達になった話じゃないの?」
「ああー、違うんですねえ。焼き殺されそうになった話なんですねえ」
「全然友達じゃないよ、それ! それよりそのしゃべり方怖いからやめて!」
セリちゃんは楽しそうにクスクス笑った。
「なんか久しぶりに笑ったかも。やっぱりカインといると楽しい。
……良かった。またカインに会えて。本当に、カインが無事で良かった……」
僕だって。
僕だってセリちゃんと一緒にいると、すごく楽しいよ。
だから、ずっとずっと、僕はセリちゃんと一緒にいたいんだ。
僕にだって、セリちゃんが無事で良かったって思わせてよ。
セリちゃんが死ななくて良かった、助かって良かったって、早く思わせてよ。
セリちゃんが楽しそうに笑うから、僕は一緒になって笑ってあげた。
でも本当は、不安でしょうがなかった。
セリちゃんがいなくなった世界は、想像するだけで身震いしてしまうほどに――。
僕にとって、真っ暗で冷たい、恐ろしい世界だったから。




