piece.1-2
「カイン~? あんた賞金首に助けてもらったんだってぇ?」
僕が家に帰るとレネーマがタバコをふかして話しかけてきた。上機嫌だった。
タバコのニオイ以外にも、僕の大嫌いなニオイもする。レネーマの客の男のニオイだ。
このタバコは前の客が忘れていったものだろう。客がいるときに帰って来なくて良かったと僕は少しホッとする。
「よくわからないけど、助けてくれた人がいたよ。賞金首ってなに?」
「これよこれ。生きたまま捕まえてディマーズってギルドに突き出せば大金がもらえるのよ~!
カイン? 当然あんた、この女と仲良くなったんだよねえ? 当然居場所は知ってんだよねえ?」
ボロボロになった紙には、怖い顔をした女の人の似顔絵が描かれていた。でもこの絵の女の人は髪が長い。僕が見た人はすごく短い髪だった。
似てるといえば似てるし、似てないといえば似てない。
「ねえレネーマ。ここにはなんて書いてあるの?」
字が読めない僕は、女の人の顔の上に書いてある文字が気になった。
「ああ。『皆殺しのセリ』だとさ。ああ怖いねえ。大悪人だよカイン。
さあ、この悪い女を捕まえて、ご褒美に大金をもらおうじゃないか。ねえあたしのかわいいカイン。お金持ちになったらこんな汚いところさっさと出て、きれいな家に住みたいだろ? おいしいものを食べたいだろ? さあ女はどこにいるんだい?」
皆殺し? あの人が? そんな悪い人には見えなかったけど……。
「……ごめん。旅の人っぽかったから。まだこの街にいるかどうかよく分からな……」
気がついたときには僕は殴られていて、吹っ飛んだ勢いで壁にぶつかった。
立ち上がったレネーマが怖い顔で僕を睨んでいる。
「はあ? 知らねえよ! さっさとその女見つけてこい! せっかく金がもらえるチャンスだろうが!
お前のその顔はそういう時に使うんだろうが! さっさと女をたぶらかして連れてこい! それまでお前のメシはねえんだよ! 分かったか!」
僕は黙って家を出る。これ以上殴られないように。
僕の食べるものがないことなんて、別に珍しいことじゃない。
今夜は雨も降らなそうだから、寝るところには困らないだろう。
適当な路地で寝よう……。
僕は歩きながら、壁にぶつかったところを無意識になでていた。
その時になぜか――自分の頭に優しく触れてくれた――セリという名前の、悪い女の人のことを思い出した。
その人が触れたときに感じた、不思議な温かさを思い出していた。