piece.19-5
「じゃあ、シロさんは大丈夫ってこと?」
僕が尋ねると、セリちゃんは真剣に悩みながら答えた。
「うん。兄さまにしてみたらアスパードなんて、『は? なんかいたか?』程度の相手なんじゃないかなあ。
というより、兄さまが大丈夫じゃない状態が、ちょっと私には想像できないというか……」
そこへレミケイドさんが戻ってきた。
「荷馬車を手配した。それに君を積んでマイカに向かう。そこで馬車に乗り換えてリリーパスに行く。回り道だがそれが一番早い。
出発は明日の朝だ、分かったな」
あいかわらずの無表情で淡々と指示を出す。声は平坦で静かなのに、一瞬で空気がピリッとしたものに変わる。
そしてセリちゃんが人ではなく荷物にされている。
「はいレミケイドしつもーん。
私に殺されたってホントー?」
だけどセリちゃんのふわふわした一言で、ピリッとした空気が一瞬で消え去った。
セリちゃんのふわふわは、レミケイドさんのピリピリと互角らしい。
そして荷物扱いされていることには気づいていないらしい。
「なら、ここにいるのは誰だ」
「だよね。おばけ?」
「笑えない冗談だが、当たりだ」
「うっそ、ホントにおばけ?」
セリちゃんが驚くと、レミケイドさんは小さくため息をついて、壁に背中をつけてもたれかかった。
どうやら経緯を説明してくれるらしい。
「暴走した君を止めようとして、君に斬られた。もちろん君は覚えてないようだな。
それなりに深手で、しばらく療養施設にいた。その最中、リリーパスが半壊する大惨事が起きた。
君が失踪したあとの話だ。おそらく俺はそこで瓦礫に潰れて死んだことにでもなっているのだろう」
セリちゃんが息をのむ。
街が半壊するなんてただ事じゃない。
「まさか……アスパードがやったの? うそ……! あいつにそこまでの戦力があるはずが……」
「違う。君の保護者が乗り込んできてうちのボスと戦闘になった。監督不行き届きの責任をどう取るのかと言ってな」
レミケイドさんがあまりにも淡々と語るので、僕は説明を聞き間違えてしまったのかと思った。
セリちゃんの、保護者?
その人が来ることと、リリーパスの街の大惨事と、どうつながるんだろう。
僕は話について行けなくなって、セリちゃんの顔をうかがった。
セリちゃんはレミケイドさんを見つめたまま、完全に固まっていた。
セリちゃんの家族は死んでしまったって聞いている。
保護者って、誰のことなんだろう。それに戦闘になるとかって……どういうことだろう?
でも、二人の会話に口を挟めそうな雰囲気ではなかったので、僕は黙ってレミケイドさんの説明を待った。
「凄まじい戦いだった。ディマーズ総動員でリリーパスの住民の避難に当たったらしい。リリーパスはたった1日で瓦礫の街へと姿を変えた」
「……ちょっと、レミケイド、嘘でしょ……?」
「嘘じゃない。俺が治療を受けていた建物も倒壊した。その避難中に戦闘を目撃した。
君の保護者の、冗談みたいな大きな武器が地面を叩き割った瞬間、大地が裂け、大量の地下水が噴き出したのを見た。
なんだあれは。化け物か」
「じょ……冗談でしょ……?」
「冗談は言わない。そのとき交戦中のボスと目が合った。おそらく意思の疎通ができたと思っている。
俺はそのままリリーパスを出て、君の行方を追った。俺の動向に関してボスは把握している。死んだことにされたのは、俺だけ自由行動だと文句をいうやつが出るからだろう」
セリちゃんは納得したらしい。
「……ゼルヤとか、うるさそうだもんね」
でも僕は、まだ何が何だか理解できていない。
つまり、レミケイドさんは死んでないのに死んだことにされていて、アダリーさんはレミケイドさんが死んだのはセリちゃんのせいだって思ってるってこと……で、いいのかな?
「ああそうだ、その話で思い出した。君に渡すものがあった」
レミケイドさんがカバンから太い縄のようなものを取り出した。
でもよく見るとそれは縄ではなく、――――人の髪の束だった。




