piece.19-4
毒じゃ、ない――?
僕はセリちゃんの言葉の意味が理解できなかった。
セリちゃんはそんな僕に説明を始める。
「私がキャラバンにいたとき、そんなことしょっちゅうだったよ。
ほら私、あいつらに手も足も出せなくてボコボコにされてたでしょ?
それでたぶん、私の体たらくに兄さまがブチ切れて、『しっかりしろてめえ!』的な喝というかなんというか。そうゆうのだよ」
「え? しょっちゅう? あのシロさんの蹴り、本気のやつだったよ?
あれ下手したら死ぬやつだよ? そんな蹴りをしょっちゅう?」
「あ、うん。昔かなり怒らせたときも、だいたいこれくらい痛かったから。そうだな……怒りレベル7か8ってところかな、これ。
うーんと……あのとき何て言われたっけなあ……えーと、『わざとか!』とか……『わざとか!』とか……『わざとか!』って、そんな感じで怒鳴ってなかった?」
え? どうだったかな? 言ってたような言ってなかったような。
っていうかセリちゃん? 3回とも全部『わざとか!』なんだけど。それもう1回で良くない? そしていったい何をやったの?
だいたい、あの時はもうそれどころじゃなかったし、もう必死だったし、シロさんが何を怒鳴ってたか、ほとんど覚えてないし……。
……ん? ていうかあれで7か8? じゃあ10ってどれくらいひどいの?
ていうかセリちゃん、10をくらったことあるの?
「えーと、じゃあセリちゃんは、シロさんにあれくらい蹴られることはよくある……ということ?」
信じられない。
あんな蹴り、僕だったら二度とくらいたくないのに。
「あはは、蹴られるのなんてかわいい方だよ。蹴りだけで済んだら運がいい方。良かったー、刃物持ってるときじゃなくてーって感じ」
……『って感じ』って……そういうノリで言うこと?
しかも笑いながら……。
「じゃあ、シロさんにアスパードの毒は……?」
僕の問いかけにセリちゃんはケロッとした顔で答えた。
「だって考えても見てよカイン。はいここに兄さまとアスパードを隣同士で並べます。
ね? 兄さまの圧勝でしょ?」
……え? 並べただけ? 質問ですらなかったよね、今の。
何を聞かれたのか、ちょっと意味が分かんなかったんだけども。何がどうなって圧勝になるの?
「あれ? わかんない? じゃあ想像してみて。兄さまとアスパード、どっちがやばいでしょう。
ね? アスパードなんか、兄さまの前じゃかすんじゃって消えちゃうでしょ? あっれー? アスパードどこにいるのー? って感じ。
むしろ兄さまがアスパードを乗っ取っちゃって、アスパードが兄さま化するほうが自然というか……あ、ごめん。いま自分で言ってて怖すぎた……ごめん、今のなし。なしなし」
せっかく良くなったと思ったセリちゃんの顔色が、また真っ青に戻ってしまった。




