piece.19-3
レミケイドさんは静かだけど、なんというか――迫力がある。
ディマーズの中でも、レキサさんはそこまで怖くなかった。
でもそれはレキサさんが半分エヌセッズの人だからだと思う。思い返してみると、アダリーさんも、すごく怖かった。
そういえば、アダリーさんが前に言ってたのって――。
僕はあのことをセリちゃんに質問してみた。
「あのね、セリちゃん。
前に会ったディマーズのアダリーって人がね、レミケイドさんはセリちゃんに殺されたって言ってたんだけど……」
セリちゃんは目をまんまるにして驚いた。
「え? アダリーがそんなこと言ってたの?
え? じゃああのレミケイドは誰? おばけ?」
…………僕に聞き返してきても困るよ、セリちゃん。
でも、なんだかそんなセリちゃんを見てると、不思議と緊張が緩んでくるから不思議だ。
ずっとこわばっていた気持ちが、少しずつ緩んでくる。
そうだった。
僕はセリちゃんといると、なんだかほっとするんだ。今みたいに。
そう思ったら、セリちゃんがそばにいるということがじわじわと実感できてきた。
自然と僕の顔がゆるんで、笑ってしまう。
「んもー、セリちゃんってば。僕は真面目に聞いたのに、もー……」
「あは、怒られちゃった」
セリちゃんが笑った。
ほんの少しだけど、さっきより顔色が良くなっている気がする。
――あ、そうだ。今のうちに薬を飲んでもらおう。
「セリちゃん。効くか分からないけど、咳の薬があるから飲んでおいてよ。少し楽になるかもしれないし」
「う……っ、それ、マズい?」
セリちゃんがすごく嫌そうに顔を歪めた。
なんか懐かしい。
そういえばセリちゃん、前にもすっごく薬飲むの嫌がってたもんね。
「あはは、大丈夫大丈夫。シロさんの毒消しに比べればすっごく飲みやすいよ。あの時のあれは本当にマズかったよね」
僕は丸薬を取り出してセリちゃんに渡した。
シロさんが拷問級にマズいって言ってた毒消しの薬草。あれは本気でマズかった。
シロさんの罰ゲームで、僕もときどきマズい草を食べさせられたけど、セリちゃんの飲んだ毒消しの方がダントツでマズかった。
あれは本当に拷問だと思う。
セリちゃんは薬を飲みこむと、苦々しい表情で言った。
「あれ、兄さまの毒消しだったんだ。道理で懐かしい味がすると思った。
そっかあ、あの頃からカインは兄さまと知り合ってたんだ……あーもう、やられたなあ。
てっきりアスパードがカインをさらったんだとばっかり思っちゃった。
ねえカイン、兄さま元気だった?」
僕が答えに詰まったのを見て、セリちゃんが心配そうな顔になった。
「セリちゃん……あのね、アスパードを殺したのはシロさんなんだ。アスパードの仲間を殺したのも。
そのあとのシロさん、急に変になっちゃったんだ。
急に怖い顔になって、怒鳴って、セリちゃんのことめちゃくちゃに蹴ったりして……。きっとアスパードの毒がシロさんに移っちゃったんだよ。
なんとかならないかな? ディマーズの技とかで、シロさんを元に戻せないかな? あんなの、シロさんらしくないよ」
「兄さまが……?」
セリちゃんは、すごく思いつめた顔をしていた。
そして僕のことをまっすぐに見て、きっぱりと言い放った。
「カイン。たぶんそれ、毒じゃないと思う」




