peace.19-1
咳が少し治まって、セリちゃんがゆっくりと呼吸する音が僕の耳に届いた。
「そっか。そんなに……。
道理で、きついと思った」
セリちゃんは否定しない。あと数日で死ぬと言われているのに。
なんで? どうして?
「何か希望があるのなら尊重するが、どうしたい?」
レミケイドさんに尋ねられたセリちゃんは、穏やかにほほえんでいた。
もうすぐ死ぬって言われている張本人なのに。
まるで、そのことを受け入れているみたいに――。
嫌だ……。
ようやくセリちゃんに会えたのに。
死んだら……もう、二度と会えない。
そんなの嫌だ。
セリちゃんのいない世界で生きるなんて……。
そんなの――絶対に嫌だ……!
想像しただけで、闇の中に突き落とされるような恐怖がおそった。
「だめだよ……! 死んじゃだめだよ! 嫌だよ! 生きてよセリちゃん!
セリちゃんが死ぬなら僕も死ぬ! ずっと一緒にいる!」
セリちゃんが僕の頭をなでながら笑った。
悲しくなるくらい、優しい笑顔だった。
「こら。死ぬなんて言わないで、カイン。
レミケイド、このままじゃカインが死んじゃう。どうかな? 間に合う?」
セリちゃんがレミケイドさんに尋ねた。
間に合うって……なんのことだろう。
「間に合わせよう」
レミケイドさんは表情一つ変えず、冷たく答えた。
「じゃ、がんばってみよっかな」
セリちゃんが大きなため息をついて、苦笑いをした。
僕はまだ頭が追いつかない。
間に合うとか、がんばるとか、……いったい何の話だろう。
会話について行けない僕に気づいて、セリちゃんが僕に向き合った。
「カイン、これからリリーパスって街に行くんだ。一緒についてきてくれないかな?」
「リリーパス……」
セリちゃんが口にした街の名前を、僕は繰り返した。




