piece.18-9
「加勢は来てないよ。バルさんとオルメスさん……もう一人、騒ぎを聞きつけて声をかけてきた人がいたけど……」
そういえばその人、どこに行ったんだろう。
アスパードの仲間だと思って、失礼な態度をとってしまったけど、違ったのかな。
だとしたら悪いことをしてしまった。
セリちゃんは、難しい顔をしながら言った。
「本当に? ヤバそうなやつ、いなかった?
なんかこう……とんでもなく人を痛ぶり慣れてるやつみたいな……危険な感じの」
「アスパードの仲間は、たぶんあの場にいたやつだけだよ。
一番ヤバい雰囲気出してたのはアスパードだったけど。それがどうしたの?」
セリちゃんはすごく難しい顔をして考え込んでいた。
「……うーん、なんていうかさ、おかしいんだ。
どう考えても、体の痛み方が……アスパードの仲間みたいな生半可な悪党にやられたときの痛みじゃないっていうか……。たぶんアスパードでもなさそうだし。
正直こういう、いつまでもエグい痛みが続くような攻撃をしてくるのって……。
いや、ないない……いやでもまさか……えー、でもなあ……ないなあ……」
あ。シロさんだね。
セリちゃん、すんごい蹴られてたもんね。僕も蹴られたけど。
うん、わかるよセリちゃん。
シロさんの蹴り、信じられないくらい後引くよね。
お腹蹴られると、しばらくごはん食べれなくなるし。なんであんなにいつまでも痛いんだろね。
「シロさ……じゃなかった、それスズシロさんだよ。
めちゃくちゃセリちゃんのこと蹴ってたから。セリちゃんが殺されちゃうんじゃないかと思ったもん」
セリちゃんがぎょっとした顔で僕を見た。
「兄さまに会ったの!?」
すごい驚きようだ。そんなに開いたら目が飛び出ちゃうよセリちゃん。
そっか、セリちゃんはシロさんのことを『兄さま』って呼んでるんだ。そういえばシロさんもそんな感じのことを言ってたような気がする。
「会ったというより、セリちゃんを探すのにずっと一緒に行動してて……」
セリちゃんがとんでもない速さで僕につかみかかってきた。
「骨は? ……折れてない。
腕も……2本ちゃんとある。足も……2本。指は……ちゃんと10本ある。
カイン服脱いで。急いで。穴とか開いてないか見るから。足の指は? ちゃんとある? 靴脱いで。いますぐ」
セリちゃんがものすごく真剣な顔で僕の体を点検する。
触ってないところがないくらいの勢いで、セリちゃんに体中触られてしまった。
「だ、大丈夫だよセリちゃん……!
いろいろこき使われたり、吊るされたりしたけど、ひどいことはされてないから」
そう口にしてから、どこからどこまでがひどいことなのか線引きが怪しいなあとは思った。
シロさんといると、ひどいことの境界線がよく分からなくなる。
関節を外されることはよくあったけど、骨を折られたことは一度もない。
あ、でも『折るぞ』って脅されたことはあったなあ。
関節を無理やり外されるのも相当痛いんだけど、あの罰ゲームがあったおかげで、アスパードに縛られてても自力で関節外して縄から抜け出せたわけだし……。
まさかこういう状況になっても大丈夫なように、シロさんが想定していたなんてことはないとは思うけど、結果的にシロさんから扱かれていたことが役に立った。
穴が開くっていうのはよく分からないけど……穴が開くってどこに穴が開くんだろう?
まさか眼きゅ――いやダメだ。考えるな。これ以上は考えないでおこう。
セリちゃんが安堵のため息をつきながら僕を抱きしめた。
「……良かった……カインが無事で……」
セリちゃんのにおいがする。
セリちゃんが僕の名前を呼んでくれる。
セリちゃんが、ここにいる。
嬉しい。ほっとする。
体が溶けていくみたいに、こわばりがほどけていく。
やっぱり僕の居場所はここなんだ。
だけど――。




