piece.18-8
「……う……あれ……? 私……寝てた……?」
あーあ、セリちゃんが起きちゃった。
でも僕はそんな落胆を顔に出さないようにして、セリちゃんに笑いかけた。
「あ、うん。ちょっとだけね。
そうだセリちゃん、着替えを用意してもらってあるよ。着替える?」
セリちゃんの枕元には新しい服が用意されていた。
セリちゃんの来ている服は血まみれでボロボロだったから、きっとここに僕たちを運んでくれる途中で、バルさんとオルメスさんが調達してくれたんだと思う。
「着替えるなら、僕は部屋を出てるから……」
僕が腰を浮かせると、セリちゃんが僕の服をつかんだ。
「いいよカイン、足痛いでしょ? ここにいてよ」
……実は足の方はセリちゃんの『痛いの飛んでけ』が効いてるからそこまで痛くはない。
どっちかというと今はシロさんに蹴られたところが地味に痛い。
鋭い痛みじゃなくて、なんていうか重くて痛い。
すっごく痛いってわけじゃないんだけど、動くとむちゃくちゃ響くから、本当はあんまり動きたくなかったりする。
だからここにいていいと言われて、ちょっとほっとした。
……もちろん決してセリちゃんの着替えが見たいって考えているわけではない。
僕はそんな邪な考えを持つような人間ではない。
シロさんに蹴られたところが響くので、動きたくないだけ。それだけだ。
「わかった。じゃあ、見ないように目隠ししてるね」
僕はそう言って目を閉じると、さらに目を両手で隠して下を向いた。
セリちゃんの着替える音が聞こえる。
……。
…………。
「ねえ、カイン? あの」
「みみみみみ見てないよっ! 指の隙間からこっそりなんて見てないよっ!
ホントだよっ! オレは嘘なんかついてないよっ!」
「え……? オレ?」
「えっ!? オレ? やだなあ、僕はオレなんか一言も言ってないよ!
やだなあセリちゃん! 僕は僕だよっ! あはははは!」
落ち着け僕。
実はこっそり見たらバレないかなーって思ってたことは思ってたけど、思ってただけでまだ見てない。だから落ち着け。
まだ未遂だ。つまり怒られるようなことは何もしてない。……まだ。
「カイン、大丈夫?
あのさ、私があいつらに殴られて気を失ったあと、もしかしてアスパードの仲間が増えたりした?」
僕はそーっと指の隙間からセリちゃんのことをのぞいてみた。
残念ながらセリちゃんは、あっという間に着替え終わってしまっていた。
……セリちゃん。着替えるの、めちゃくちゃ早いね……。
僕はバレないようにそっとため息をつくと、目隠しするのをやめたのであった。




