piece.18-6
僕には今、何もすることがなかった。
足の傷が開くとよくないから、無意味に動き回ることもできない。
セリちゃんはしばらく起きそうにないけど、僕まで一緒に寝てしまうのは危険だ。
もしかしたら、アスパードの仲間がここに来る可能性だってある。
ふとベッドの脇に立てかけてある、セリちゃんの剣が目に入った。
もし敵が来たら、僕のナイフじゃ小さすぎて戦えない。
僕はセリちゃんの剣を、すぐに使えるように自分の手元に引き寄せた。
セリちゃんの剣は、思ってたよりずっと軽い。
鞘には植物の蔦のような装飾が彫られている。模様はとても細かい。
きれいな剣だった。
だけど――きれいだったとしても、これは人を殺すための武器であることに変わりはない。
しばらくずっと剣を見つめていたけれど、僕は意を決して話しかけてみた。
「あの、すみません。ちょっと聞いてもいいですか?」
自分で言ってて、頭がおかしいやつみたいだと思う。
だって、剣に話しかけるなんて、普通じゃあり得ない。
「あのー、しゃべれますよね? ちょっと教えてほしいことがあるんですけど」
『……なによ』
うわ! ホントに返事した!
驚きすぎて何も言えなくなってしまう。
『用がないなら声かけないで。アタシこう見えてけっこう気が立ってんだから』
こう見えて……と言われても、通常時との違いは何ひとつ分からない。
セリちゃんと話しているときより、声(?)が低い気がするから、怒ってるっぽいのは分かった。
それにしてもどこから声を出しているんだろう。
まさかどこかに口があったりするのかな?
……と、そんなことより僕は急いで謝った。
「ご、ごめんなさい。あのー、アスパードがいたときに、えーっと、剣……さん、言ってましたよね?
このままじゃ戻れなくなるとか、あの人みたいになるとか」
僕はその話を詳しく聞きたかった。
『は? 剣さん? なにそれ? アタシのこと?
最っ低。なんなのその呼び方、全然かわいくないんだけど』
しまった。機嫌を損ねてしまったらしい。
僕はあわてて謝罪する。
「ごごご、ごめんなさい! すいません! あ、あの、えっと、じゃあなんて呼べばいいんでしょうか?
な、名前……! 教えてもらってもいいですか?」
『名前? 悪いけどアタシ名前がないの。
……ひどくない? セリがね、アタシに名前を全然つけてくれないのよ。ひどいでしょ? いっつもアタシのことをあんた呼ばわり。ほんっと頭にきちゃうわ。
長年のパートナーに名前もつけないってホント失礼だと思わない? だいたいアタシ、セリ以外に話せる相手がいないんだから、セリが名前つけてくれなくちゃ他に誰が名前をつけてくれるって言うのよ。ねえそう思わない? 思うでしょ? 思うわよね?』
「え? あ、はい。……え?」
けっこうよくしゃべる剣だ。どうしよう、口が挟めない。
だいたいなんでこの話題になったんだっけ?
『あ! そうだわカイン、あなたが考えてよ、アタシの名前』
「……へ? 僕?」
いきなり剣に名前を呼ばれてびっくりした。




