piece.17-13
鎖を払い落そうとしたシロさんの手に鎖が絡みつく。
そこに知らない人が駆けつけてきた。
「何をしている」
その声は静かで、決して大きな声ではないのに、威圧するような響きがあった。
「うるせえ! 内輪揉めだよ!
関係ないやつは黙ってろ! 怪我したくなきゃあな!」
シロさんらしくないシロさんが、鎖が巻きついたままの手で男の人へ殴りかかった。
でもその人はシロさんの拳をあっさりかわした。
そしてシロさんの手に巻きついている鎖を絡め取った。
その途端――、なぜかシロさんが苦しみだして体勢を崩した。
「……っ! 何しやがった……!? ふざけやがって! クソ……!」
鎖を手から引き抜いたシロさんは、鎖を地面に叩きつけた。
そして舌打ちをして、走り去る。
「……え……?」
シロさんが、勝てなかった……?
いま起きた出来事が、何度も僕の頭の中で反芻される。
シロさんが、負けた……?
シロさんが、逃げた……?
僕が呆然としてる間に、その男の人はすぐそばまで近づいてきた。
「大丈夫か? とにかく彼女をどこかへ運ぼう。君も怪我をしてるな。歩けるか?」
突然現れたその人は、セリちゃんを抱えようと手を伸ばす。
せっかく助けてくれた人なのに、僕は思わずその人を手を乱暴に払ってしまった。
「この人に、触らないでください。
……オレが、運びますから」
体がざわざわする。
きっと毒が騒いでいるんだ。
アスパードの近くにいたから……?
それとも、この人に反応してる……?
「君も怪我をしている。無理はしない方がいい。彼女は自分が……」
「触るな!」
僕はナイフを構えて、その人を睨んだ。
セリちゃんを誰にも触らせたくなかった。
こいつだってアスパードの仲間かもしれない。
もしかしたらアスパードよりヤバいやつかもしれない。それも、シロさんが逃げ出すくらい強いやつ――。
くそ、それがどうした。
今度こそセリちゃんは僕が守る。指一本触らせるもんか。
その男の人は僕を見て、小さく笑った。
「……何がおかしい?」
僕は思い切り声を低くして相手を睨んだ。
なめられちゃダメだ。
「……いや、おかしくはない。笑ってすまなかった」
その人は、わずかに目を細めた。
敵意はなさそうだけど、信用はできなかった。
どうすればいい?
どうすればこの状況で、セリちゃんのことを守れる?
シロさんは頼れない。僕が一人でなんとかしないと――!
「うわ! 何だこりゃ! 随分とひでえな!
うおっ! まじかよお前、カイン!?
……ってことはそこにいんのはセリか!?
どうなってんだこりゃっ!?」
緊張感をぶち壊す、聞き慣れた大声――。
男の人の後ろから、バルさんとオルメスさんが現れた。
僕の体から、一気に力が抜ける。
「……バルさん……セリちゃんが……、セリちゃんを……」
なぜか胸が詰まって、声が出せなくなった。
「おっしゃ任せろ! オルメスはカインを頼む!」
バルさんがセリちゃんを抱き上げるのを見届けて、オルメスさんの肩を貸してもらったら、緊張の糸が切れた。
思い出したように体が震え始める。
僕は……何もできなかった……。
アスパードを殺すこともできず、シロさんを止めることもできず、怪我したセリちゃんを運んであげることもできない。
僕は……なんて無力なんだろう……。
悔しくて、涙があふれてきた。
自分のことが、殺したいくらい憎かった。
第17章 誅戮の黒
<CHURIKU no KURO>
~retribution~ END




