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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第17章 誅戮の黒 ~retribution~
183/395

piece.17-13



 鎖を払い落そうとしたシロさんの手に鎖が絡みつく。


 そこに知らない人が駆けつけてきた。


「何をしている」


 その声は静かで、決して大きな声ではないのに、威圧するような響きがあった。


「うるせえ! 内輪揉(うちわも)めだよ!

 関係ないやつは黙ってろ! 怪我したくなきゃあな!」


 シロさんらしくないシロさんが、鎖が巻きついたままの手で男の人へ殴りかかった。


 でもその人はシロさんの拳をあっさりかわした。

 そしてシロさんの手に巻きついている鎖を絡め取った。


 その途端――、なぜかシロさんが苦しみだして体勢を崩した。


「……っ! 何しやがった……!? ふざけやがって! クソ……!」


 鎖を手から引き抜いたシロさんは、鎖を地面に叩きつけた。

 そして舌打ちをして、走り去る。


「……え……?」


 シロさんが、勝てなかった……?


 いま起きた出来事が、何度も僕の頭の中で反芻される。


 シロさんが、負けた……?


 シロさんが、逃げた……?


 僕が呆然としてる間に、その男の人はすぐそばまで近づいてきた。


「大丈夫か? とにかく彼女をどこかへ運ぼう。君も怪我をしてるな。歩けるか?」


 突然現れたその人は、セリちゃんを抱えようと手を伸ばす。


 せっかく助けてくれた人なのに、僕は思わずその人を手を乱暴に払ってしまった。


「この人に、(さわ)らないでください。

 ……オレが、運びますから」


 体がざわざわする。

 きっと毒が騒いでいるんだ。


 アスパードの近くにいたから……?

 それとも、この人に反応してる……?


「君も怪我をしている。無理はしない方がいい。彼女は自分が……」


「触るな!」


 僕はナイフを構えて、その人を睨んだ。


 セリちゃんを誰にも触らせたくなかった。

 こいつだってアスパードの仲間かもしれない。


 もしかしたらアスパードよりヤバいやつかもしれない。それも、シロさんが逃げ出すくらい強いやつ――。


 くそ、それがどうした。

 今度こそセリちゃんは僕が守る。指一本触らせるもんか。


 その男の人は僕を見て、小さく笑った。


「……何がおかしい?」


 僕は思い切り声を低くして相手を睨んだ。

 なめられちゃダメだ。


「……いや、おかしくはない。笑ってすまなかった」


 その人は、わずかに目を細めた。


 敵意はなさそうだけど、信用はできなかった。

 

 どうすればいい?

 どうすればこの状況で、セリちゃんのことを守れる?


 シロさんは頼れない。僕が一人でなんとかしないと――!


「うわ! 何だこりゃ! 随分とひでえな!

 うおっ! まじかよお前、カイン!?

 ……ってことはそこにいんのはセリか!?

 どうなってんだこりゃっ!?」


 緊張感をぶち壊す、聞き慣れた大声――。


 男の人の後ろから、バルさんとオルメスさんが現れた。


 僕の体から、一気に力が抜ける。


「……バルさん……セリちゃんが……、セリちゃんを……」


 なぜか胸が詰まって、声が出せなくなった。


「おっしゃ任せろ! オルメスはカインを頼む!」


 バルさんがセリちゃんを抱き上げるのを見届けて、オルメスさんの肩を貸してもらったら、緊張の糸が切れた。


 思い出したように体が震え始める。



 僕は……何もできなかった……。



 アスパードを殺すこともできず、シロさんを止めることもできず、怪我したセリちゃんを運んであげることもできない。



 僕は……なんて無力なんだろう……。


 悔しくて、涙があふれてきた。


 自分のことが、殺したいくらい憎かった。


 第17章 誅戮の黒

<CHURIKU no KURO>

~retribution~  END

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