表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第17章 誅戮の黒 ~retribution~
181/395

piece.17-11



 どうしてこんなに赤いんだろう。


 世界が真っ赤に染まっている。


 まるで……。


 まるで、ブラッド・バス――?



 違う、セリちゃんにそんな呼び名は似合わない。

 僕はそんな言葉、大っ嫌いだ。



 僕以外はみんな眠っているみたいだった。


 どうしてみんな、突然寝てしまったんだろう。


 どうして僕だけ起きてるんだろう。

 まるで時間が止まってしまったみたいだった。


 ふと振り返ってみると、アスパードの顔が逆さまになっている。


 ――え……? 何で逆さま……?



 僕はすっかり静かになっていたアスパードの姿を凝視する。

 アスパードの目は、大きく見開いて、僕のことを見つめていた。


 体は逆さまじゃないのに、顔だけが逆さまだった。


 あれ? おかしいな。なんでだろう。


 ようやくアスパードがどういう体勢なのかを、僕の頭が理解できるようになってきた。


 アスパードの首は半分だけつながった状態で、ぶらんとひっくり返っていた。


 そんな不思議な恰好をしたアスパードの前に、真っ黒な影が立っている。


 影が手に持った大きなナイフから、真っ赤な(しずく)(したた)り落ちた。


 ぴちょん……という静かな音を立てて、赤い雫は影の足元に溶けていく。


「……シロ……さん……?」


 僕は黒い影に呼びかけた。


 影がゆっくりと振り返る。

 思ったとおり、やっぱりシロさんだった。


 シロさんはナイフについた真っ赤な水を払うと、僕に向かって歩いてきた。


 シロさんの顔には、なんの表情もない。

 シロさんがどこを見てるのか、僕は分からなかった。


 シロさんの瞳の奥は、いったいどこにつながっているんだろう。


 真っ暗な洞窟みたいだ……と思った。


「72点」


 シロさんの低い声が、やけに大きく響く。


 シロさんが歩くたびに、赤い水が跳ねた。


「縄を切るまではもたついたが、腕を抜くのはまあまあ早かった。初めての実戦にしちゃあ上出来だ。

 強いていうなら……」


 肩と腕に強い痛みが走って、僕は思わず(うめ)いた。


「自分で関節外したんなら、ちゃんと自分ではめろ。すぐにな」


 シロさんにはめてもらったら、ようやく腕が動くようになった。


 夢中だったせいで、自分で関節を外していたなんて思いもしなかった。


 道理で腕が動かないと思った。


「ありがと、シロ……」


 言いかけて、声が出なくなってしまった。


 シロさんが黙って僕の頭をなでたから。


 シロさんに頭をなでられるときは、だいたい僕をバカにしたり子供扱いしてるときばっかりだった。


 真面目な顔のシロさんに頭をなでられたのは、たぶん初めてだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ