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流転するアルケウス ~inherited Meme~  作者: イトウ モリ
第17章 誅戮の黒 ~retribution~
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piece.17-10



 相手はガリガリに痩せ細っている女の人なのに。


 ふらふらで、立ってることすらできないくらいに衰弱してる女の人なのに。


 アスパードの仲間の男たちは、全く容赦することなくセリちゃんに暴力をふるっていた。

 男たちの怒号の合間に、セリちゃんの苦しそうな咳が聞こえる。


「俺の弟を殺しやがったんだこの女!」


「くそ! なにがブラッド・バスだ! このアマが! てめえが殺した仲間の人数分、骨を折ってやる……!」


「楽に死ねると思うなよ! まだまだお前を恨んでる仲間がこっちにゃたくさんいるんだ! 全員の気が済むまで殺すかよ!」


 無抵抗なセリちゃんに、男たちは執拗に殴り、蹴り続け、ついに着ているものまで破り始めた。


「せいぜい死ぬ前に楽しませてやるぜ! 俺たちに感謝するんだな!」


 血の気が引いて、僕は思わず叫んだ。


「やめろ! その人に触るな!

 ……殺してやる! その人に触ったやつから順番に殺してやる!」


 ようやく手首の縄が全部切れた。

 ナイフを持ち直し、しっかりと拳に握り込む。


「ガキが! お前にもこの女が泣きわめくのをたっぷり拝ませてやるよ! 指くわえて見てな!」


 ふざけんな――!

 腕の縄を抜いたら、お前からすぐに殺してやる……!


 一瞬でもいい。

 あいつらの動きを止めなくちゃ――!


 僕はめいっぱい叫んだ。

 相手が怯むくらいの大音量で。


「オレのセリに……っ! さわんじゃねえ――――――っ!!」





 ようやくセリちゃんの(そば)に駆けつけて、なぜか腕が動かないことに気づいた。


 セリちゃんを抱きしめたいのに、腕が動かせない。


 セリちゃんは、気を失っていた。


 傷だらけになって……。

 ボロボロになって……。



 ごめん……。


 ごめんねセリちゃん、すぐに助けてあげられなくて……。


 おかしいな。

 どうして腕が動かないんだろう。


 早くセリちゃんを抱きしめて、大丈夫だよって言ってあげたいのに。


 こんなひどい場所から、早く連れ出してあげたいのに。



 静かだった。

 なにも音がしなかった。


 まるで時間が止まったみたいに。



 何も聴こえない。


 自分の心臓の音と息遣いだけが唯一の音のように、暗い路地で大きく響いていた。


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